日本大百科全書(ニッポニカ) 「運定め話」の意味・わかりやすい解説
運定め話
うんさだめばなし
昔話。神の定めた運命に逆らう努力をすることを主題にした一群の宗教的因果譚(いんがたん)。文学的にまとまっているのは「産神問答(うぶがみもんどう)」である。ある男が家を離れて一夜を過ごす。夜中に神々が、今夜、男の子と女の子が隣どうしに生まれたが、女の子に福分を授けたと話すのを聞く。男が家に帰ると、自分の家には男の子が生まれているので、隣の女の子と許嫁(いいなずけ)にする。2人はのちに結婚して富裕になるが、夫は妻を嫌って追い出す。女は再婚して幸せに暮らす。男は貧乏になり、物乞(ものご)いをして歩く。前の妻の家を訪ね、恥じて死ぬ。女が再婚した男を炭焼きとして、「炭焼き長者」の昔話に続く例もある。離婚する部分からあとは、古来著明な芦刈(あしかり)説話で、平安期の『大和(やまと)物語』『今昔物語集』、南北朝期の『神道集』などにもみえる。生まれたときに神によって配偶者が定められるという昔話は、ギリシア、イギリス、南ヨーロッパなどにもあるが、それらはむしろ日本の「夫婦の因縁」に近い。妻になる女を神に予言された男が、その女を嫌って殺害するが、生きていて、結局、夫婦になるという話で、『今昔物語集』や、藤原兼実(かねざね)の日記『玉葉(ぎょくよう)』仁安(にんあん)3年(1168)の条、室町期の物語草子『賢学草子』などに、僧の逸話としてみえる。中国でも、『太平広記』に引く唐代の『続幽怪録』や『玉堂閑話』にあり、昔話も、中国、インド、トルコからヨーロッパに広がっている。「産神問答」と同じ発端で、生まれた子が事故で死ぬと予言される「子供の寿命」の話もある。水で死ぬとか、大工になって刃物で死ぬとかいう例が多い。方策を講じて天寿を全うする話にもなっている。六部(ろくぶ)などの遊行(ゆぎょう)宗教家が予言をする話もある。宗教家がこの昔話を語り広めたのであろう。この類話は、古くは『今昔物語集』にもあり、ヨーロッパなど外国にも知られている。運命を回避しようとする話は、中国の『捜神記(そうじんき)』をはじめ、朝鮮、中国、インドからヨーロッパに広く分布している。
[小島瓔]