昔話。思いがけない財宝の発見を主題にした致富譚(たん)の一つ。身分の高い人の姫が、神のお告げにより、炭焼きの妻になる。姫が小判を与えて買い物に行かせると、炭焼きは、小判を池の水鳥に投げ付けて帰ってくる。姫が小判の価値を説明すると、あんなものは炭焼く山にはいくらでもあるという。山の黄金を手に入れ、炭焼きは長者になる。炭焼きの妻が再婚であったとする型に対して、これを初婚型とよぶ。北は青森県から南は沖縄県まで、各地に伝説として伝わっている。炭焼きの名を藤太あるいは小五郎と称している例が多い。大分県竹田(たけた)市の内山観音は、この伝説の中心地で、長者の名を「満野(まんの)長者」という。その物語は「炭焼き長者」と「絵姿女房」の複合した形式で、中世以来、語り物として語られてきた。長者の子孫の草苅(くさかり)氏は臼杵(うすき)市に現存し、花炭(はなずみ)とよぶ堅炭(かたずみ)を焼く技術を伝承していた。類話は東アジアに分布し、朝鮮や中国のパイ族・イ族などに、どれも炭焼きの話として知られている。パイ族の話は古く明(みん)代の『南詔(なんしょう)野史』にもみえる。
再婚型もほぼ全国的に分布している。福分のある女と福分のない男が結婚する。ささいなことが原因で夫は妻を追い出す。妻は放浪して炭焼きと再婚する。初婚型と同じように炭焼きは長者になる。前夫は乞食(こじき)になって長者の家にきて、元の妻に会い、貧乏を恥じて死ぬ。中国のミャオ族にもこの再婚型があり、前夫を祀(まつ)ったのが、かまど神であるという。炭焼きとはいわないが、再婚型のかまど神の由来譚は、江戸初期の『琉球神道(りゅうきゅうしんとう)記』にもみえる。沖縄県宮古島には、「炭焼き長者」再婚型を家の先祖の炭焼き太郎の物語として伝える旧家があった。朝鮮の類話では炭焼きの妻の父親が再婚型の前夫の役割を果たしている。初婚型は再婚型から単純化したものかもしれない。
[小島瓔]
貧しい炭焼きが福分を持った女性との結婚によって財宝を発見して長者になる話。話には初婚型と再婚型がある。初婚型は,妻の教えによって黄金の値打ちを知り,富を得るもので,身分のある娘が占いによって炭焼きに嫁ぐ例が多い。この話は,炭焼藤太の伝説としても各地に伝えられている。津軽藩主の系図の中にも組み込まれている。再婚話は,福分のある妻を追い出したために男は零落して,その妻が再婚した炭焼きが長者になるというものである。産神(うぶがみ)の運定めが初婚の機縁になっている場合が多い。岩手県遠野市の例では,金遣いが荒いために追い出された女房が炭焼きと再婚して長者になる。そこに乞食になった先夫が訪ねてくる。哀れに思った女房は先夫を下男として家に置いてやったと語っている。《大和物語》や《今昔物語集》に類話がある。中国や朝鮮にも同様の筋を持った話がある。伝播に関しては,鍛冶師などの関与があったかと考えられている。
執筆者:常光 徹
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