改訂新版 世界大百科事典 「過安息香酸」の意味・わかりやすい解説
過安息香酸 (かあんそくこうさん)
perbenzoic acid
安息香酸の過酸化物ということで,この名がある。無色板状結晶で,融点41.3~42℃。大部分の有機溶媒に可溶,水,石油エーテルには難溶。ひじょうに不安定で,加熱すると爆発的に分解するため取扱いに注意を要する。製法は無水安息香酸と過酸化水素との反応,または過酸化ベンゾイルにナトリウムアルコキシドを作用させて得られるナトリウム塩を冷希硫酸で分解する方法による。
強い酸化作用をもつため酸化剤として用いられるが,とくにエチレン結合のエポキシ化に有効である。このとき,爆発の危険がないことから,過安息香酸の誘導体であるm-クロロ過安息香酸が実験室的エポキシ化反応に用いられる。また室温で,クロロホルム中で試料にやや過剰の過安息香酸を反応させ,未反応の過安息香酸を逆滴定することにより,エチレン結合の定量に利用される。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報