改訂新版 世界大百科事典 「選択公理」の意味・わかりやすい解説
選択公理 (せんたくこうり)
axiom of choice
選出公理ともいう。空集合φを含まない集合族(集合の集合)に対して,それに属する各集合からそれぞれ一つずつ元を一挙に選び出してそれらの全体がまた集合になるようにできるという集合論の命題である。換言すれば,集合族に属する集合がいずれも空集合でないとき,すべてのF∈に対して,f(F)∈Fを満たす写像が存在するという陳述である。このような写像fを選択関数という。G.カントルは〈いかなる集合もその元の間に適当に順序を定義して整列集合にすることができる〉(整列可能定理)が成り立つことを予想していたが,1904年,E.ツェルメロが選択公理を初めて提出し,これを用いて整列可能定理を証明した。選択公理は代数学や解析学において無意識のうちに用いられている場合が多い。選択公理と整列可能定理およびツォルンの補題の三つは互いに同等な命題であることが証明できる。ツォルンの補題とは次の命題をいう。Xを任意の順序集合とする。Xのいかなる全順序部分集合も上界をもてば,Xには少なくとも一つの極大元が存在する。ツォルンの補題は応用上便利であって,数学の多くの分野で選択公理や整列可能定理よりもよく用いられる。選択公理を用いて得られる重要な結果として,例えば(1)任意の二つの集合の濃度は比較可能である。(2)コンパクト空間の直積位相空間はまたコンパクトである。(3)ルベーグ非可測な集合が存在するなどがある。なお,選択公理は集合論の公理系から独立であることが証明されている。
執筆者:柘植 利之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報