酒造歌(読み)さけつくりうた

改訂新版 世界大百科事典 「酒造歌」の意味・わかりやすい解説

酒造歌 (さけつくりうた)

酒屋歌〉ともいい,造り酒屋で酒を仕込むときに歌われる労作唄。酒造りの季節,冬期約3ヵ月間を主に農山村から出稼ぎに来る,専門の酒造り職人のことを杜氏(とうじ)と称する。杜氏はその出身地により,南部杜氏,越後杜氏丹波杜氏などの名称で呼ばれた。その酒造り作業の工程に従って歌にいろいろの種類があった。最も古い歴史を有する大阪湾の北岸,灘(なだ)の五郷(ごごう)地方の酒屋歌の例でいえば,まず前年度に使用された六尺桶や半切(はんぎり)といって盥(たらい)状の桶その他の器具類を熱湯につけてささらで洗うときの〈桶洗い歌〉があり,これを〈秋洗い〉とか〈洗い場の歌〉ともいう。次に酛(もと)を作るために蒸米(むしまい)と麴(こうじ)と水とを半切桶に入れて,3~4人が長い櫂でかくはんするときに歌う〈酛摺(す)り歌〉がある。次いで酛に対してさらに十数倍の原料を3回にわたって添加・発酵させる,もろみ作りの作業に歌われるのが〈仕込み歌〉で,これも作業の進行により初添(はつぞえ),仲添(なかぞえ),留添(とめぞえ)の三つに分かれ,全体の発酵には20日ないし1ヵ月を要する。最後の留添の歌が〈留仕込み歌〉で,それも終わってすぐ桶をかくはんするときに歌う歌を〈飯(めし)合わせの歌〉という。これらの歌は,単に労働疲労を忘れさせるだけでなく,時計のない時代には,その歌の数が時計の代用ともなった。
労作歌 →労働歌
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