〈労働者の歌〉のこと。労働に伴う歌を指す場合もあるが,これらは仕事歌,作業歌,労作歌などと呼ばれて区別される。労働歌は,労働運動の中で労働者の団結を促し,その階級的自覚や士気を高めるために生まれた歌で,多くは本質的に闘争歌であり,革命歌とも関係が深い。集団で歌うことが多く,大衆歌としての性格から替歌が多い。19世紀以来,労働運動,革命運動の高揚の中で,各国の,あるいは国際的な労働歌が作られており,1848年にはケーニヒスベルク(現,カリーニングラード)で最初の《労働歌集》が編まれている。60年以降は,労働者合唱団がドイツ各地に続々とつくられた。19世紀後半の著名な曲例には,《ラ・マルセイエーズ》を改作した《労働者のマルセイエーズArbeiter-Marseillaise》(作詞J. アウドルフ,1864。小野宮吉訳《コムミュニストのマルセイエーズ》1930)や,《インターナショナル》などがある。20世紀に入ると,ロシア革命とソビエト建設およびその労働歌・革命歌が世界的に影響を与えた。ワイマール共和国時代のドイツも,作曲家アイスラーや劇作家ブレヒトら芸術家たちの参加のもとに,労働者芸術は多産であった。第2次大戦中に各国で生まれた抵抗歌は,戦後労働歌として歌われている。戦後,労働運動だけでなく,民族解放運動,反戦運動,差別撤廃運動(公民権運動)など多様な民衆運動が世界的におこり,それに応じて,とくに1960年代に,アメリカのフォーク・ソングにおけるプロテスト・ソング(ピート・シーガーの1940年採譜といわれる《勝利はわれらにWe shall Overcome》など),ラテン・アメリカ諸国のフォルクローレにおける〈新しい歌nueva canción〉の運動(オルテガSergio OrtegaとキラパジュンQuilapayun共作の《不屈の民El pueblo unito jamás será vencido !》など)のような,民族的な様式をもつ新しい民衆歌が大きな力をもった。
日本では1897年労働組合期成会が結成され,翌年4月10日東京で行われたデモの行進歌が最初の労働歌とされる。1908年発表された《革命歌》(〈ああ革命は近づけり〉。作詞築比地仲助,曲は一高寮歌《嗚呼玉杯に》)はその後十数年間最もよく歌われた。なお明治期では1899年,足尾鉱毒事件の請願行動に際して渡良瀬農民の生んだ闘争歌《鉱毒悲歌》が注目される。
大正期に入ると労働運動は急速に高揚し,今日まで残る数々の労働歌が生まれた。《赤旗の歌》(訳詞赤松克麿,1921。原曲はドイツ民謡《樅の木》の旋律にイギリスのコンネルJim Connellが1889年作詞した《The Red Flag》),《メーデーの歌》(〈聞け万国の労働者〉,1922。作詞大場勇,曲は一高寮歌《アムール河の》),《インターナショナル》などはその代表曲である。1920年後半には専門家の参加によるプロレタリア芸術運動が組織化された。この時期に広められた歌に,ロシア革命の中で愛唱された,《憎しみのるつぼSmelo,tovarishchi,v nogu》(作詞ラージンLeonid Petrovich Radin,1897。訳詞鹿地亘,1927)や,《ワルシャワ労働者の歌Warszawianka》(作詞シュビエンチツキWacław Święcicki,1883。旋律は1863年に発表された《ジュアフ行進曲》。クルジジャノフスキーGleb M.Krzhizhanowskiiのロシア語歌詞を経て,1927年ころ前衛芸術家同盟による日本語歌詞)などがある。これらの労働歌は,日本では初めから激しい弾圧にあい,その中での闘争歌として燃えさかったが,1933年ころを最後に,ついにその創造活動を絶たれた。
第2次大戦後の解放を象徴したのがメーデー歌《世界をつなげ花の輪に》(作詞篠崎正,作曲箕作秋吉,1947)であった。また〈うたごえ運動〉は数々の労働歌や反戦歌を生み出したが,なかでも《原爆をゆるすまじ》(作詞浅田石二,作曲木下航二,1953)が核兵器反対運動ののろしとなった。日本の労働歌に関する文献としては,西尾治郎平・矢沢保編《日本の革命歌》(1974)などがあげられる。
→プロレタリア音楽
執筆者:大浜 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
労働運動と結び付いた歌で、仕事歌とは区別される。労働歌は労働者の階級闘争や革命思想を反映し、力強いあるいは悲壮感あふれる曲調と歌詞、そして多くの場合に集団歌唱の形式をとることが大きな特徴である。闘争歌、革命歌、反戦歌、追悼歌などに細分類される。こうした内容と形式が集団の連帯感を高め、闘争心を鼓舞する。フランス革命のときに生まれた『ラ・マルセイエーズ』(1792)が初期の例で、その後も国際的に名高い『インターナショナル』(1888)、『ワルシャウィアンカ(ワルシャワ労働者の歌)』(1883)などが国境を越えて伝播(でんぱ)伝承されている。新しいところでは、北アメリカのフォーク・ソング運動の一環を担う独唱によるプロテストソングや、南アメリカのフォルクローレに属する「新しい歌」としての『不屈の民』(キラパジュン作)をはじめ、日本の「うたごえ運動」の曲など、多数つくられている。
[山口 修]
…労働歌。パリ・コミューンのとき,革命家で詩人のE.ポティエが1871年に作った詩に,ドジェーテルPierre Degeyter(1848‐1932)という素人作曲家が88年に作曲した。…
…労働の際に歌われる歌の総称。すべての生産労働の際に歌われる歌で,〈仕事歌〉〈作業歌〉〈労働歌〉ともいう。労作歌は民謡として最も本質的なもので,多くは労働能率を高めるために作業の進行に対する一種の拍子歌として歌われるのが普通である。…
※「労働歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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