日本大百科全書(ニッポニカ) 「金の茄子」の意味・わかりやすい解説
金の茄子
きんのなす
昔話。目下の者が目上の人を知恵でやりこめることを主題にした笑話の一つ。人前で屁(へ)をした奥方を殿様が実家へ帰す。身ごもっていた奥方は男の子を生む。10歳ほどになったとき、子供は父親がいないわけを母から聞く。思案した子供は、町へ行き、金の実のなる茄子の種は要らないかと売り歩く。それを聞いた殿様が召し、本当かと問いただす。子供が屁をしない女が種をまかなければならないと答えると、殿様は屁をしない女が世の中にいようかと笑う。そこで子供は自分の素性を明かす。殿様は母子を呼び戻し、子供は殿様の世継ぎになる。ただの単純な笑話ではなく、貴人の流離を主題とする人間模様で彩られており、興味深い構成になっている。朝鮮にもあり、比較的よく知られている昔話の一つらしい。沖縄県では琉球(りゅうきゅう)王朝の歴史と結び付けて語られている。知念村(現南城市)久高(くだか)島の旧家で、村の長の役職、根人(ねひと)(ニーンチュ)を世襲する外間(ほかま)家の伝説の形式をとり、初代の根人の娘の思樽(おみたる)が琉球国王の夫人になったという。父王は玉城(たまぐすく)王、子供の思金松兼(おみかねまつがね)は後の西威(せいい)王であると伝え、いまも思樽夫人がお産をした産殿を聖所としている。この物語は古く首里(しゅり)王府の『球陽』外巻『遺老説伝(いろうせつでん)』(1745ころ)にも記されているが、一般にも広く知られている。岩手県でも雫石(しずくいし)町の八幡館(はちまんだて)の伝説になっている例があり、この昔話は、日本では歴史になりやすい形で伝えられていたようである。
[小島瓔]