さび【錆・銹・鏽・寂】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「さびる(錆・寂)」の連用形の名詞化 )
- [ 一 ]
- ① 化学変化によって、金属の表面に生じた、酸化物の皮膜。水酸化物、炭酸塩その他の塩類の皮膜についてもいう。ふつう、金属は光沢をうしない、表面から内部に向かって腐食が進むが、逆に、じょうぶな皮膜となって内部への腐食を食い止める場合もある。鉄さび、赤さび、緑青(ろくしょう)など。〔本草和名(918頃)〕
- ② わが身についた害物。→み(身)から出た錆。
- [初出の実例]「Accersitus〈略〉ワガシンシャウニマネキタルワザワイ、ミヨリイダセル Sabi(サビ)」(出典:羅葡日辞書(1595))
- 「此銭の青鏽(あをさび)より我身の鏽(サビ)が拭(のご)はれぬ」(出典:浄瑠璃・三荘太夫五人嬢(1727)二)
- ③ 「さびうるし(錆漆)」の略。
- [ 二 ]
- ① ( 寂 ) 蕉風俳諧の用語で、発句・付句の句中における閑寂の色あいを主調とする、深くかすかな美的情趣をいう。造化に随順し、世俗を超越した作者の精神の色調・俳諧的境地が、作品の上ににじみ出たのだといえる。
- [初出の実例]「凡さひ、しほりは風雅の大切にして、わするべからざるもの也」(出典:俳諧・青根が峯(1698)答許子問難弁)
- ② ( 寂 ) 古びて枯れたあじわいのあること。閑寂な趣のあること。地味で趣のあること。淋しみ。静寂味。
- [初出の実例]「廬同が夜なべに茶をほうじて、雨夜のさびに伴ひ、やいとげの豆のからからとなる時は」(出典:俳諧・鶉衣(1727‐79)前)
- ③ 謡物、語物などの声の質で、噪音的なものが含まれた渋みのあるもの。単純で美しい声よりも味があると考えられる。
- [初出の実例]「たいぶざしきがつづくそうだ。しかしあのさびがいいじゃアねへか」(出典:洒落本・売花新駅(1777)楼上興)
- ④ 一般に、低く太い声。人を威圧するようなすご味のある声。
- [初出の実例]「『だ、だれだい』といふ声は低けれど鏽(サビ)を帯びて重き調子なるに」(出典:夜の雪(1898)〈幸田露伴〉)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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