日本大百科全書(ニッポニカ) 「錫鉱床」の意味・わかりやすい解説
錫鉱床
すずこうしょう
tin deposit
錫鉱石を産出する鉱床。錫鉱床は、初生鉱床と二次鉱床に大別され、鉱床型として前者には熱水鉱床に属するスカルン型鉱床、鉱脈鉱床、鉱染鉱床、網状(もうじょう)鉱床など、後者には風化残留鉱床、漂砂(ひょうさ)鉱床がある。もっとも重要な鉱床型は漂砂鉱床で、スズの全産出量の80%を占める。しかし、二次鉱床を含めてスズの起源は、主としてS型(イルメナイト型)とよばれる酸性から中性の貫入岩類であって、その生成時期は二畳紀から第三紀にわたっている。この型の岩石は還元環境で生成されるので、スズが造岩鉱物中に取り込まれず、マグマ水中に濃集するため、錫鉱床を生成しやすいと考えられている。
錫鉱床を伴う酸性から中性の貫入岩類は、その貫入場所の深さによって、火山底性貫入岩、浅所貫入深成岩、底盤に分けられる。錫鉱床生成に関係ある火山底性貫入岩としては流紋岩、石英安山岩、安山岩などがあげられる。これらに伴う鉱床は熱水性の鉱脈、鉱染鉱床、網状鉱床など種々の産状を呈する。スズの鉱石鉱物は錫石であるが、低温から高温にわたる銀、亜鉛、銅、タングステンなどの鉱物を伴うのでゼノサーマル型鉱床xenothermal depositともよばれる。この型の錫鉱床の代表例はボリビア南部に分布するが、日本、オーストラリア、シベリアでも知られている。花崗(かこう)閃緑岩~花崗岩の浅所貫入に伴って生成される錫鉱床は熱水鉱脈またはスカルン型鉱床として産し、錫石のほか、銅、鉛、亜鉛などの鉱物を産することが多い。イギリスのコーンウォール地域の鉱床が古来有名であるが、中国、ペルー、オーストラリア、カザフスタンでもこの型の鉱床を産する。花崗岩の深所大規模貫入岩体である底盤に伴う錫の初生鉱床は、低品位の細脈群あるいは網状鉱床として産し、経済的にはあまり重要ではない。しかし、これを起源とする二次鉱床は、インドネシアのビリトンBilliton島からマレー半島、ミャンマーに至る東南アジア錫鉱床地帯をはじめ、中国、ブラジル、ロシア、アラスカ、オーストラリアなどに広く分布し、錫資源としてもっとも重要である。
2002年の世界の鉱山におけるスズの生産量(金属量)は23万1000トンで、主要生産国は中国9万0500トン、ペルー7万1000トン、インドネシア5万トン、ブラジル1万3000トン、ボリビア1万2000トン、オーストラリア9000トン、マレーシア6000トンとなっている。また、スズ埋蔵量(金属量)は全世界610万トン、中国170万トン、マレーシア100万トン、インドネシア80万トン、ペルー71万トン、ブラジル54万トン、ボリビア45万トンである。
[鞠子 正]