翻訳|andesite
通常、斑晶(はんしょう)質で、中性の斜長石、単斜輝石(普通輝石、ピジョン輝石)、斜方輝石(紫蘇(しそ)輝石)、普通角閃(かくせん)石、黒雲母(うんも)、磁鉄鉱などからなる火山岩。そのほか、橄欖(かんらん)石、ざくろ石、石英、菫青(きんせい)石などを含むこともある。造山帯に多く分布する暗灰色、灰色ないし淡赤色、雑色などの火山岩で、カルク・アルカリ岩系の火山岩相の代表。日本ではもっとも多く分布する火山岩である。色指数35~10。19世紀初頭ドイツのブッフにより南アメリカのアンデス山脈山中の火山岩に対して命名された。日本名は1868年(明治1)小藤(ことう)文治郎により富士岩とされたが、地質調査所では安山岩の訳を用い、のちにこれが一般的となった。石基はガラス質のこともあるが、斑晶とほぼ同じ鉱物のほか、アノーソクレース、鱗珪(りんけい)石、クリストバル石などを含む。安山岩をさらに細分、記述するのには斑晶の苦鉄(くてつ)質鉱物を用いて、普通輝石安山岩、ピジョン輝石安山岩、紫蘇輝石安山岩、古銅輝石安山岩、普通輝石・紫蘇輝石安山岩(両輝石安山岩)、角閃石安山岩、黒雲母安山岩、ざくろ石安山岩などとよぶ。岩石の性質としては玄武岩と石英安山岩(デイサイト)の中間の性質をもつ。
この岩石は、日本列島、アリューシャン列島、ロッキー山脈、アンデス山脈をはじめとして広く環太平洋地域や、他の新旧の造山帯に分布するが、太平洋地域や大西洋地域には、アルカリ質の粗面安山岩のようなものしか分布しておらず、典型的なカルク・アルカリ岩系の安山岩は海洋性地殻の地域には分布しない。1912年にニュージーランドのマーシャルP. Marshallが提案した安山岩分布の境界線を安山岩線とよぶ。
安山岩マグマの成因としては、(1)マントル内での初生的な安山岩質本源マグマの発生、(2)玄武岩質マグマからの分化、(3)玄武岩質マグマと地殻物質の混成、(4)地殻物質の融解などが考えられており、主成分元素、微量元素、同位体、高温高圧合成実験などの各方面から研究されているが、まだ完全な解決には至っていない。いくつかの異なった過程を経て、ほぼ同質の安山岩の形成される可能性も考えられる。
日本の火山岩中もっとも分布の広いのはこの安山岩で、これは耐火性も強く、発達した節理のため採石しやすく、また美しいものも多いので石材として利用されることが多い。神奈川県真鶴(まなづる)町の新小松石、長野県下の鉄平石(てっぺいせき)、鹿児島市伊敷町の黒御影(くろみかげ)、香川県坂出(さかいで)市のかんかん石、神奈川県小田原市の根府川石(ねぶかわいし)、福島県須賀川市の須賀川石などがある。
[矢島敏彦]
日本の火山岩のなかでは一番量の多い岩石である。多量の白い斑晶鉱物と少量の黒色の斑晶鉱物,および灰色の石基からできていることが多い。しかし斑晶が少ない安山岩や急に冷やされたため石基が黒色に近い安山岩もある。安山岩は含まれる斑晶鉱物の種類によって,普通輝石・シソ輝石安山岩,角セン石安山岩,黒雲母安山岩などに細分される。よりケイ酸SiO2成分にとぼしい玄武岩との間で,組成も存在量も連続的に移り変わる。よりケイ酸成分に富むデイサイトとの間も連続的である。安山岩は狭義には,カルクアルカリ系列中間組成の火山岩をさすが,広義には,ソレイアイト系列のアイスランド岩,アルカリ系列の粗面安山岩を含めることもある。従来,安山岩はケイ酸成分にとぼしい玄武岩質本源マグマが,地表にむかって上昇する途中で分化してできると考えられていたが,高温高圧実験によって,上部マントル物質に水が含まれるときは,直接安山岩質マグマができることがわかった。また玄武岩質マグマとデイサイトあるいは流紋岩質マグマの混合によってできたと考えられる安山岩もみつかった。安山岩は日本のような島弧・大陸縁地域に産し,海洋プレート上にはほとんど産出しない。このような産出地域差は,プレートテクトニクスモデルが提唱される以前に知られており,マーシャルP.Marshallが太平洋周辺での安山岩分布地域限界を安山岩線とよんで以来(1912),この線を境としてマグマの成因が異なると考えられてきた。厚い緻密(ちみつ)な安山岩溶岩には冷却時に生じた柱状や板状の節理が発達している。この節理を利用して石材として採掘しているのが,神奈川県箱根古期外輪山溶岩の根府川石や長野県諏訪市東方の鮮新世塩嶺累層中から産出する鉄平石である。
執筆者:宇井 忠英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
中性火山岩.南アメリカのアンデス山脈の火山岩に対して命名された.SiO2が55~65% 程度で,その性質は玄武岩と石英安山岩の中間にある.典型的安山岩の平均化学組成(%)は,以下のとおりである.SiO259.59,TiO20.77,Al2O317.31,Fe2O33.33,FeO 3.13,MnO 0.18,MgO 2.75,CaO 5.80,Na2O3.58,K2O2.04,H2O1.26,P2O50.26.斜長石,単斜輝石,斜方輝石,角せん石,黒雲母,磁鉄鉱,チタン鉄鉱などから構成される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…国内では福島県黒石山(浮金石),山口県須佐に産するがいずれも小規模であり,ほとんどが墓石材で建築用はもっぱら輸入材に頼る(〈御影石〉の項目参照)。(2)安山岩 日本には大量に分布しているが,美しさや強度の点で花コウ岩に及ばず,おもに土木用の割りぐり石や砕石などに利用されている。安山岩には節理が発達し,板状節理に沿って薄くはげる長野県諏訪の鉄平石は,その外観の味わいから建築,特に住宅に広く利用されている。…
※「安山岩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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