動物の行動が遺伝的に組み込まれていると考えられる、いわゆる生得的行動は、受容した刺激のなかから選択的に抽出した少数の刺激要素によって解発される。このような刺激をラッセルE. S. Russelは信号刺激sign stimulusとよび(1943)、ティンバーゲンは暫定的記述用語として信号刺激を採用した。行動生物学では、この刺激を、生得的解発機構を作動させて特定の行動を発現させる鍵であるとの比喩(ひゆ)から鍵刺激または信号刺激とよび、行動の機構を分析的に追究する感覚、神経生理学的な記述で使用されることが多い。これと今日ほとんど同義で区別が困難なリリーサー(解発因とも訳される)は、仲間個体や他種動物に備わった鍵刺激をさし、行動を個体レベルで包括的に記述するときに使われることが多い。
[植松辰美]
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