オランダの経済学者。オランダ語読みではティンベルヘン。ハーグに生まれ、ライデン大学物理学科を卒業。物理学者としての将来をアインシュタインに期待されたが、1933年にロッテルダム経済大学の講師となる。36~38年、国際連盟の景気循環研究委員。当時の学問的成果『景気循環問題への計量経済学的接近』An Econometric Approach in Business Cycle Problems(1937)、『アメリカ合衆国における1919―32年の景気循環』Business Cycle in the United States of America1919―1932(1939)の二著は世界における計量経済学のパイオニア的労作として不朽の名著となったが、経済理論を統計的に実証したこの画期的試みをケインズは「錬金術」と評した。反ナチス抵抗運動を経て、第二次世界大戦後の45~55年オランダ中央経済計画局長官を務める。社会党の経済政策の指導者でもあり、これらの実際経験と計量経済学とを結び付けた成果として、『計量経済学』Econometrics(1951)、『経済政策の理論』On the Theory of Economic Policy(1955)、『経済政策――原理と計画』Economic Policy : Principles and Design(1956)などがある。とくに最後のものは、因果モデルを逆転して、目的を外生、政策手段を内生とする真の政策モデルであり、線形連立方程式型のモデルは世界各国で使用されているが、その創始者がティンバーゲンであることは意外に知られていない。発展途上国開発問題についての代表作には『経済開発の設計』The Design of Development(1958)がある。また、68~73年、国連開発計画委員会委員長を務め、70年1月には『第二次国連開発の10年のための指針と提案』(いわゆる「ティンバーゲン報告」)を発表した。69年R・フリッシュとともに最初のノーベル経済学賞を受けた。なお、73年にノーベル医学生理学賞を受賞した動物行動学者ニコラス・ティンバーゲンは実弟である。
[尾上久雄]
『錦織理一郎・鈴木啓裕訳『計量経済学』(1961・政文堂)』▽『気賀健三・加藤寛訳『経済政策の理論』(1956・巌松堂書店)』▽『尾上久雄訳『経済開発の設計』(1985・有斐閣)』
オランダの経済学者。オランダ語読みではティンベルヘン。ハーグで生まれた。経済学者としての経歴以外でも多彩で,ライデン大学で物理学博士号を得たのち,オランダ社会党員として政治に参加,第2次大戦では反ナチ地下運動にも加わった。戦後オランダの中央経済計画局長官(1945-55)として活躍,自身の開発した短期経済計画モデルを行政に応用している。1933年以来ロッテルダムにあるオランダ経済学校(現,エラスムス大学)にあり,55年以降73年まで教授。国連開発計画(UNDP)委員会委員長(1968-73)として〈第2次国連開発の10年のための指針と提案〉を70年1月発表したが,これは〈ティンバーゲン報告〉として知られる。1969年創設第1回のノーベル経済学賞をR.A.K.フリッシュとともに受賞した。〈経済過程の分析にダイナミックなモデルを開発し,かつこれを実用化した〉という授賞理由にもあるように,彼の業績としては,計量経済学的手法にもとづく景気変動過程の分析を最も早く手がけたことをはじめ,その理論の短期政策モデルへの応用,さらに経済体制論や発展途上国開発論の分野での貢献があげられる。
執筆者:黒田 昌裕
オランダ生れのイギリスの動物学者。オランダ語ではティンベルヘンと発音。ライデン大学で学位を取得後,1947年より同大学教授。第2次大戦中,ナチのユダヤ人政策に反対し,オランダの収容所に送られる。49年イギリスに渡り,66年オックスフォード大学教授。動物行動学(エソロジー)の開拓者の1人として,K.フォン・フリッシュ,K.ローレンツとともに73年ノーベル医学生理学賞を受賞。主として実験的研究にすぐれ,理論のローレンツとのコンビで動物行動学を築きあげた。研究範囲は動物行動の解析全般にわたるが,昆虫,トゲウオ,セグロカモメなどの生得的解発機構の研究はよく知られている。また《本能の研究》(1951,69)において,生得的解発機構の階層モデルを提出し,神経生理学と動物行動学の統合的研究の進展に貢献した。晩年には《自閉症,文明社会への動物行動学的アプローチ》(1972)などにみられるように,人間の行動にもエソロジーの手法を適用し注目をあつめた。なお早世した弟のルカスLukas T.も鳥の採食行動の研究で有名であり,兄のヤンJan T.は1969年度ノーベル経済学賞を受賞。
執筆者:小林 伝司
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…これに対して防衛的な攻撃は相手に深刻な傷を与えたり,ときには死に至らしめることがある。 N.ティンバーゲンらはトゲウオの繁殖期の行動の研究を通して儀式的な闘争と生理的な背景の関係を明らかにしている。春暖かになり繁殖期が近づくと,雄性ホルモンの活性が高まり,生殖の欲求にかられた雄が浅瀬に集まり,巣づくりをしたりなわばりをもつようになる。…
…リリーサーはバルブを開く力で,バルブが開かれると,一定の水量,すなわち欲求に対応する行動が流出することになる。その後,N.ティンバーゲンは,生得的解発機構が階層的な構造をもつことを明らかにした。つまり,動物が一定の生理状態に達すると,まず最上位の中枢が活性化し,次位の中枢の活性化を促すが,行動の発現には抑制が働いていて,それを解くにはリリーサーが必要である。…
…ただしこれらは,動植物どちらも個体数の増減を基本としたものであった。 動物の行動に注目する研究は,初期(1920年代)のものとしてはK.vonフリッシュによるミツバチのダンスと太陽コンパスに関する研究があったが,K.ロレンツとN.ティンバーゲンによって動物行動学(エソロジー)が基礎づけられた。1973年にこれらの学者に異例のノーベル賞が与えられたことは,この分野の発展を象徴するものであった。…
… ファーブルを代表とする在野の研究者の間に伝えられた行動研究の博物学的な側面は,O.ハインロート,C.O.ホイットマン,J.S.ハクスリーらに受け継がれ,やがて1930年代から40年代にかけて,K.ローレンツによって,動物行動学の理論づけがなされる。そして1973年のローレンツ,N.ティンバーゲン,K.vonフリッシュのノーベル医学生理学賞受賞によって,自然科学としての認知を得た。ローレンツ流の動物行動学は,人間の行動の生物学的基盤を明らかにするという一面があり,ローレンツ自身やD.モリスらの著作は大きな反響を呼ぶと同時に,強い批判をも巻き起こした。…
※「ティンバーゲン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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