開発災害(読み)かいはつさいがい

改訂新版 世界大百科事典 「開発災害」の意味・わかりやすい解説

開発災害 (かいはつさいがい)

自然界のしくみを十分に考慮に入れない開発行為,たとえば技術的に未熟な開発,あまりにも経済性を優先させた開発,あまりにも急激な自然の改変によって自然界のバランスを崩してしまう開発などによってひき起こされる災害をいう。すなわち,人間の開発行為そのものがおもな要因となって起こる災害である。開発技術が自然界のバランスや自然界と人間社会のバランスを大きくは崩さない程度の技術力しかなかった時代には,自然界の異変によってひき起こされる災害は,人間の力の及ばないものとして,天災と呼ばれ,自然災害範疇はんちゆう)に入れられていた。しかし,今日のように技術革新が進み開発技術が高度化し,巨大化してくると,今まで不可能であった開発行為も可能となる。現代では,時代の経過のなかで十分に災害に試されたことのないこれらの技術が,自然環境を十分に考慮せずに盛んに用いられるようになった。その結果,いったん災害に見舞われると,原因が台風豪雨地震などを直接原因とする自然災害であっても,もたらされる被害はむしろ開発の結果を原因とすることのほうが大きいといった場合がしばしば起こっている。山林を伐採したために山崩れ水害が起こり,無理な宅地造成の結果地震や豪雨で大きな被害をこうむる場合や,山林を切り開いて自動車道路を造ったために起こる災害,ダム決壊による水害などいろいろある。また,たとえば1970年に大阪の天六の地下鉄工事現場で起こった爆発災害や,大都市の地震によってひき起こされる市街地大火のような都市災害と呼ばれる災害も,その要因は開発行為にあると考えるならば,広義の開発災害と呼ぶことができる。1923年の関東大地震のあと甚大な被害をもたらした大火災なども,都市の造り方に問題があったという認識に立てば,都市の開発災害であったといえよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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