山地の斜面をつくっている岩石や土壌の一部が突発的に崩壊する現象。崖(がけ)崩れも山崩れの一種である。もっとも多い原因は豪雨であり、梅雨期や台風期に日本の各地で発生し、土石流とともに人命や家屋、山林、耕地などに被害をもたらしている。そのほか、地震や火山爆発によって発生することもある。山崩れは傾斜角がほぼ30度以上の斜面ではどこでもおこる可能性があるが、地形的、地質的におこりやすい所とおこりにくい所とがある。豪雨による山崩れでは浸透地下水流が重要な役割を演ずる。降水の浸透による水分の増加によって粘着性は減少し、一方、間隙(かんげき)水圧の発生のため浮力を生じて垂直応力を減少して内部摩擦が小さくなり、滑りに対する抵抗力より重力の作用が大きくなった所で山崩れがおこる。地形的、地質的に地下水の集水する所や、断層線や破砕帯の近くで地下水の供給の多い所におこりやすい。花崗岩(かこうがん)や集塊岩のような風化しやすい岩石は地表から深い所まで風化して岩石の粒子の固結度が小さくなり、雨水が多量に浸透すると風化層とその下の新鮮な岩石面との間に境を生じて安定を失い、その上部が崩れやすい。また、斜面の形についてみると、勾配(こうばい)が35~45度で凹形の斜面に崩壊が多く発生している。大地震や火山爆発による頻度は少ないが、規模が大きい場合がある。地震による山崩れは雨によるものと異なり、凸形でより急勾配の斜面上部に多く発生する傾向がある。山崩れはそれ自体災害の原因になるとともに、河川への流出土砂の生産源となり、下流地域へ種々の影響を与える。
大規模崩壊は、一般に土石流あるいは岩屑(がんせつ)流となり、きわめて流動性が高く、遠く(高さの10倍程度)まで流出し、下流の地形を一変させて大災害を与えるので、頻度はそれほど高くはないが、自然災害上きわめて注目すべき現象である。
[芦田和男・水山高久]
『山口真一著『地すべり・山崩れ 実態と対策』(1990・大明堂)』▽『塩田修著『地震・高潮・山崩れ 自然災害入門』(1998・新風舎)』
山や丘陵などの斜面を構成している基盤岩や,地表を覆う岩屑層の一部が突然断裂して崩れ落ちる現象で,マス・ムーブメントの一種。崩れ落ちる部分と,その下の不動部分との境界は明瞭で,山崩れ発生後にその面が新しい地表面となって現れる。発生が突発的で物質の移動速度がきわめて速く,崩れ落ちた部分が原形をとどめないほど崩壊する,などの点で動きの緩慢な地すべりと異なる。
一般に山崩れと総称される斜面崩壊現象には,表層の岩屑が斜面をすべり落ちる岩屑すべり,基盤岩から岩盤が剝がれてすべり落ちる岩石すべり,岩盤や岩屑が一挙に崩れて高速で斜面をすべり下る岩屑なだれ,さらには火山活動による火山体の崩壊などを含んでいる。規模の大きな山崩れでは,途中から土石流や泥流に変わって谷を流下することが多い。またごく表層の土層や,大きな岩塊が混じっていない岩屑層の崩壊を土砂崩れ,火山灰やシラスなどの火山噴出物に覆われた台地のへりや段丘崖のように,高さの低い崖や斜面の崩壊と,道路や宅地造成地など人工的な切取り面の崩壊は,崖くずれと呼んで区別することが多い。人里離れた山地内で発生するものを山崩れ,山間の住宅地の裏山や道路わきの斜面崩壊を土砂崩れ,市街地の比較的小規模なものを崖崩れということもあるが,これは人間生活との関係からみた分類というよりも,むしろ斜面の土地利用を反映したものと考えた方がよい。例えば崖崩れは,第2次大戦前までほとんど問題にならなかったが,その後自然条件を無視した無理な開発にともなって,東京,横浜を中心に関東ローム層に覆われた台地のへりや段丘崖,南九州のシラス台地の崖に多発して,しばしば災害をもたらしている。これらの山崩れは,豪雨か地震が引金となって発生するものがほとんどで,前者を豪雨型山崩れ,後者を地震型山崩れとして区別することもある。地表数十cmの土砂や岩屑層のみが動く比較的小規模な豪雨型山崩れは,豪雨後3時間までの間に,傾斜30~40度の斜面に発生しやすい。地震型山崩れはそれよりも急な40~60度の急斜面に集中するが,軟らかい地層の所では,それより緩斜面でも起こる。関東大地震では丹沢山で総面積6000町歩に及ぶ山崩れが発生した。
1回の崩壊によって生じた土砂が1000万m3程度以上の山地斜面の崩壊を,巨大崩壊と呼んでとくに区別することもある。このような大規模な崩壊は,発生頻度は少ないが,大災害になる。日本では山体内部が脆弱な古い火山で大きな崩壊が発生している。1772年(安永1)の地震にともなう島原半島の眉山(びざん)/(まゆやま)の崩壊では,1億m3以上の土砂が有明海に押し出し,湾内に大津波を発生させて,1万5000人近い犠牲者を出した。なおこの大崩壊は火山活動によるとする説もある。アルプスなど氷河作用を受けて急斜面の多い山地では岩盤の崩れが多い。1963年イタリア,アルプス山中のバイオント・ダムでは,長雨の後,長さ1.9km,幅1.6km,厚さ150mの岩盤が貯水池中にすべり落ちて大洪水を生じ,約4000人が洪水にのまれた。70年のペルー沖地震では,アンデスの高峰ワスカラン(ペルー)の氷河に覆われた岩盤に大崩壊が発生し,2万人近い犠牲者が出た。
執筆者:小疇 尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…(2)隆起・沈降 上下方向に生じる地盤の変位である。(3)地すべり,山崩れ,崖崩れ,山津波 地盤が徐々に崩れる現象が地すべりである。それが,傾斜地などで突然的に生じれば山崩れあるいは崖崩れとなり,さらに,谷間などでそれらが大規模に発生すれば山津波となる。…
※「山崩れ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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