イギリスの作家コンラッドの中編小説。1899年刊。マーロウ船長が、アフリカの奥地を訪ねたときの経験を語る、という形で書かれている。地図を見て暗黒世界の魅力に抗しきれず、コンゴ川をさかのぼった彼が現地で見たものは、人間性の暗黒だった。交易と称して実は支配と搾取を続けながら、自らも精神的に荒廃してゆく白人たち。とくに興味をひき強烈な印象を与えるのは、クルツという人物である。彼は現地人たちに神のごとく畏敬(いけい)され、象牙(ぞうげ)の収奪に狂気じみた執念を燃やす男であり、その最期をみとったマーロウは、巨大な空虚を感じて慄然(りつぜん)とする。異様な雰囲気とともに人間性の恐るべき深淵(しんえん)を象徴的に描いた名作。
[高見幸郎]
『中野好夫訳『闇の奥』(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし,映画が人物の主観の中に入っていくという実験的意義は評価されたものの,このような一人称描写が人間の心理の内面を描く技法となりえたかは疑問視されている。ハリウッド映画の常識を破ったオーソン・ウェルズも,彼の最初の映画としてジョゼフ・コンラッド原作の《闇の奥》を全編一人称カメラで映画化しようとして果たさなかったが,代りに撮ることになった《市民ケーン》(1941)の,アンケートするレポーターの主観描写に,一人称カメラのなごりが見られる。【柏倉 昌美】【山田 宏一】。…
※「闇の奥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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