マーロー(読み)まーろー(英語表記)Christopher Marlowe

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マーロー」の意味・わかりやすい解説

マーロー
まーろー
Christopher Marlowe
(1564―1593)

イギリス詩人劇作家シェークスピアを頂点とするエリザベス朝演劇の露払い役「大学才人(ユニバーシティ・ウィッツ)」の代表的人物。カンタベリーの靴職人の長男に生まれ、奨学金でケンブリッジ大学を卒業。在学中から、ウォルジンガムFrancis Walsingham(1532―1587)のもとで当時ヨーロッパ一を誇るイギリス諜報(ちょうほう)機関に関係し、最後はスパイ仲間に刺殺された。その間ウォーター・ローリー卿(きょう)ら進歩的文化人と親交を結び、無神論者の刻印を押されるなど、29年の生涯は波乱に富んでいる。戯曲としては、アジアの一羊飼いが欧亜大陸(ユーラシア)の征服者となり、「地上の王冠」を手にしながら死んでいく過程を描く悲劇タンバレン大王』二部作(1587~1588)、ファウスト伝説に材をとる『フォースタス博士』(1588~1592)がよく知られる。ほかに、物欲に徹した男の悲劇『マルタ島ユダヤ人』(1589)、シェークスピアの『リチャード2世』に通ずる弱き国王の悲劇『エドワード2世』(1592)、聖バルトロメオの日に起こったユグノー教徒大虐殺を描く『パリの虐殺』(1593)など。これらの作品はいずれも、物欲、知識欲、征服欲など常軌を逸した欲望に憑(つ)かれ、挫折(ざせつ)しながらも従容として死につくルネサンスの典型的人間像を、無韻詩(ブランクバース)で歌い上げている。イギリス・ルネサンスの申し子といわれるゆえんである。詩人としても非凡の才を示し、未完ながら、官能的筆致で運命に翻弄(ほんろう)される若い恋人たちの悲恋を描く伝統的物語詩『ヒーローとレアンダー』(1598)ほかがある。

[玉泉八州男]

『小津次郎訳『マルタ島のユダヤ人』(『エリザベス朝演劇集』所収・1974・筑摩書房)』『北川悌二著『マーロウ研究』(1964・研究社出版)』『P・ヘンダーソン著、川崎淳之助訳『マーロウ』(1971・研究社出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マーロー」の意味・わかりやすい解説

マーロー
Marlowe, Christopher

[生]1564.2.26. 〈洗礼〉カンタベリー
[没]1593.5.30. デトフォード
イギリスの劇作家,詩人。「大学出の才人」の最年少者で,イギリス演劇においてシェークスピアの最も重要な先駆者。靴屋の長男に生れ,教会から奨学金を得てケンブリッジ大学に学んだが,聖職にはつかずロンドンに出て劇界に身を投じ,『タンバレン大王』 Tamburlaine the Great (2部,1587) 以下,29歳で刺殺されるまでの6年足らずの間に,ルネサンス的な,無限の人間的欲望を追求する超人的スケールの主人公を「雄渾な詩行」で描く一連の悲劇を発表,退屈で機械的な無韻詩に劇的生命を吹込んだ。学生時代からスパイ活動に従事,また無神論者の嫌疑を受けた。『マルタ島のユダヤ人』 The Jew of Malta (89頃) ,『エドワード2世』 Edward the Second (92頃) ,『フォースタス博士』 The Tragicall History of Dr. Faustus (92~93頃) などのほか,未完の物語詩『ヒアローとリアンダー』 Hero and Leander (G.チャップマンが完成,98刊) がある。

マーロー
Marlowe, Julia

[生]1866.8.17. カンバーランド,ケジック近郊
[没]1950.11.12. ニューヨーク
イギリス生れのアメリカの女優。本名 Sarah Frances Frost。 1870年アメリカに渡り,子役としてデビュー,87年に演じた『ロミオとジュリエット』のジュリエットで名声を確立した。夫 E.H.サザンとともに多くのシェークスピア作品に出演,各地を巡業した。

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