病名からは、どのような病気であるかがわかりにくい精神障害のひとつです。WHO(世界保健機関)による診断名は
一般に、10代後半から20代に発症し、40歳以上ではまれとされています。日本ではやや女性が多いことが指摘されています。
自己の認知機能の障害と考えられ、素因(人が生まれもっている性質)と環境要因によるとは推定されますが、現在まで明確な発病メカニズムは解明されていません。疲労やストレス、てんかん、脳神経疾患、薬物乱用などにより出現する場合や、不安障害、気分障害、
この障害では、現実感の喪失と呼ばれる症状が特徴的です。この症状は、しばしば一時的に、時に持続的反復的に出現します。これはたとえば、自分自身の感覚や体験が、自分から
このような異常な体験をしていながら、現実を吟味する力はあまり減弱することなく、こうした体験の異常性を認識し、さらにこうした体験が自分の外部からの人や「力」によって引き起こされているといった被害的、あるいは妄想的な認識はもちません。
併存する障害がなければ、この現実感の喪失以外に明確な症状をもちませんが、先ほど述べたように現実感の失われる程度にはバリエーションが多くみられるので、この障害を疑ったら種々の側面から現実感の喪失を問うことが大切です。
診断では、身体的疾患の除外とともに、てんかんや中毒性(アルコールや薬物)の障害ではないことを鑑別することが大切です。さらに、他の精神障害と重なっていないかを確認します。
そのうえで、症状の特徴をとらえていきますが、この障害のための特別な検査はありません。医師は、たとえば「自分がいつもの自分でない感じ、あるいは自分の手や体が自分のものでないような感じはありませんか?」あるいは「外の景色がいきいきと感じられず、何か作り物のように感じられることは?」といったことをたずねます。
この病気に特異的な治療法はありませんが、しばしばストレスと関連して現れているので、カウンセリングによりストレスの要因を明らかにして、それを減らしたり、対処や回避の方法を工夫するなどは有効です。予後は、半数くらいの人で症状が慢性化しやすく、その程度もあまり変化しないとの報告があります。
この病気の症状自体は、健康な人でもしばしば経験するものです。ただ、症状による苦痛が強い場合、持続して日常生活や社会生活に支障を来す場合には治療が必要です。精神医学の分野では、よく知られた症状ですが、とくにこの分野のみを得意とする医師がいるわけではありません。
この病気にはさまざまな精神的障害も関連している場合があり、専門医の適切な診断および治療を受ける必要があります。症状には波があり、出たり出なかったりを繰り返しやすいので早めに受診し、医師のアドバイスを受けることは日常生活の質を変え、社会生活の安定をえていくうえで大切です。
小野 和哉
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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