改訂新版 世界大百科事典 「青髯伝説」の意味・わかりやすい解説
青髯伝説 (あおひげでんせつ)
青髯Barbe-Bleueとは,フランスのC.ペローの《昔話集》(1697)に収められた同名の物語の主人公である。不気味な青い髯のゆえに恐れられている大金持ちの貴族が新妻を迎えるが,彼女は夫の留守中に禁断の小部屋をのぞいてしまう。そこにはかつて青髯によって次々に殺された6人の先妻たちの死体が並んでいた。帰宅後,新妻が禁を破ったことを知った青髯は彼女を殺そうとするが,彼女の機転と2人の兄弟の活躍によって逆に殺される。あらゆる昔話中最も残忍かつなまなましいものの一つであり,しかも類話の残存する地方が限られているために,古来,実在のモデルがいるのではないかと噂されてきた。そのうち最もよく引合いに出されるのは15世紀の貴族ジル・ド・レで,この人物はジャンヌ・ダルクを助けたことでも知られるが,他方〈幼児虐殺者〉の異名をとり,ナントで処刑されている。ほかにもイギリス王ヘンリー8世など,モデルとされる歴史上の人物は少なくない。しかし超自然的な青い髯や禁断の部屋のモティーフを手がかりに,より普遍的な原型をさぐる研究もなされている。この主人公のきわめて個性的な風貌と性格のゆえか,後世における再話ないしパロディの試みが盛んであり,グレトリーの《青髯ラウル》(1789)やオッフェンバックの《青髯》(1866),メーテルリンクの《アリアーヌと青髯》(1907),アナトール・フランスの《青髯の七人の妻》(1909),バルトークの《青髯の城》(1911)など,数々の文学・音楽作品の源泉となっている。
執筆者:巖谷 國士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報