日本大百科全書(ニッポニカ) 「食事室」の意味・わかりやすい解説
食事室
しょくじしつ
家庭における食事をするための部屋。食堂、茶の間、ダイニング(ルーム)などともいう。日本では、仏寺に食堂(じきどう)がつくられることはあったが、住宅においては平安時代の寝殿造において大饗(たいきょう)に寝殿が用いられたことがわかっている程度で、とくに食事の場が用意されたという記録はみつからない。以上のように、古くから明治に至るまで、住宅においてはとくに食事のための部屋を用意することがないのが普通であった。一般的には居室に膳(ぜん)などにのせて食事を運び、農家など庶民の住居ではいろり端が食事の場所となることが多かった。食事のための部屋としては、明治に入ってヨーロッパやアメリカの影響を受けた洋風住宅に、食堂が設けられるようになったのが早い例である。同じころの和風住宅では、家族が食卓を囲んで食事をとるようになるとともに、食事室として茶の間が設けられるのが常となっている。家族の生活の核となった茶の間は、明治のなかば過ぎから第二次世界大戦が始まるころまで展開された生活改善運動の影響を受けて、日の当たらない北側から日の当たる南に面した場所に設けられるようになった。その後、住宅の機能分化を考える建築計画学の影響を受けて食寝分離が進められ、さらに畳に座る生活から椅子(いす)式の生活様式が普及する過程で、昭和20年代の後半からダイニングキッチンが導入された。敗戦後の住宅事情からダイニングキッチンが急速に普及し現在に及んでいるが、近年になって生活および住宅の規模にやや余裕が出てきたことから、台所で食事をする感じのダイニングキッチンを見直し、食事の場を台所から分離して居間といっしょにしたリビングダイニングや、軽く区画した食事の場をつくろうとする傾向がみられる。ヨーロッパでも中世には、住宅の中心であったホールの一隅に食卓を並べるのが普通であり、その後もベッドなどのある居室で食事をする光景がみられ、一般の住宅で広く食事室が独立して設けられるようになるのは、18世紀に入ってからである。
[平井 聖]