日本大百科全書(ニッポニカ) 「麻薬・覚醒剤」の意味・わかりやすい解説
麻薬・覚醒剤
まやくかくせいざい
麻薬・覚醒剤の濫用は、人の健康を害するばかりでなく、家庭や社会に害悪を及ぼすところにその危険性の本質があり、深刻な社会問題となっている。
日本においても、薬物濫用は、第二次世界大戦後、3回の大流行があったが、いずれも取締りの徹底、罰則の強化、啓発活動の推進などにより、かなりの効果をあげてきた。1984年(昭和59)以降の日本における薬物事犯の動向をみると、覚醒剤事犯は依然として高率にあるとはいえ、減少もしくは横ばい傾向にあるのに対して、麻薬等事犯(麻薬及び向精神薬取締法、あへん法、大麻取締法の各違反をいう)は、増加の傾向にある。最近の特徴をみると、(1)覚醒剤や大麻以外にもコカイン、ヘロイン、LSDなど多様な薬物等の濫用が増加傾向にあること、(2)薬物の不正取引によって莫大(ばくだい)な利益をあげることができるため、組織化、巧妙化していること、(3)薬物濫用者層が青少年や主婦等の一般市民層へ浸透しつつあることなどで、いまや薬物濫用禍は、世界各国においても大きな社会問題となっている。
こうしたことから、麻薬取締法の一部が改正され、麻薬及び向精神薬取締法が1990年(平成2)8月に施行された。なお、この改正により、向精神薬(中枢神経系に作用して精神機能に影響を及ぼす物質の総称で、新しい幻覚剤として世界的に流行している睡眠薬、精神安定剤など)が規制対象に加えられた。また、麻薬および向精神薬の不正取引を防止するため、1992年7月にいわゆる麻薬二法(「麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律」および「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」)が施行された。これは、従来の法律にはなかった新たな規定を含むもので、麻薬新条約(「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」)の要請に応じている。マネー・ロンダリング(不法収益等隠匿)の処罰、不法収益の凍結、コントロールド・デリバリー(監視付移転)などに関する規定が設けられ、薬物濫用の根絶に向けての国際協力が強化されることとなった。
[佐藤典子]