日本大百科全書(ニッポニカ) 「LSD」の意味・わかりやすい解説
LSD
えるえすでぃー
強力な幻覚剤(精神異常発現物質)リゼルギン酸ジエチルアミドd-lysergic acid diethylamideのことで、ドイツ語のLyserg säure diäthylamidの頭文字をとった略称。1943年スイスの化学者ホフマンの創製で、麦角(ばっかく)アルカロイドの研究中に異常な気分に襲われた体験から発見された。消化管から容易に吸収され、20マイクログラムの少量の内服で知覚異常や幻覚をはじめ、抑うつ、統合失調症(精神分裂病)に類似の症状を呈する。LSDはアメリカにおいて、その幻覚症状がヒッピーとよばれた若者の間で一時愛好され、乱用の結果、麻薬よりもひどい害をもたらしたことから法律によって厳しく規制されるようになった。LSDの幻覚作用は、物がゆがんで見え、壁のしみが人の顔に見えたり、人の顔は漫画化されたように誇張され、彩色感が強まり、極彩色の映像が明滅し、音に触れるような超自然的な感興をおこして異常な心境に引き込まれ、悲観から楽観へ急変したり、逆に不安や恐怖に襲われるなど情動面の変化が激しく、奇抜な空想や妄想的非現実性狂信で忘我の状態となる。
LSDはまだ臨床的応用が確認されておらず、特殊な精神障害をおこすことによって精神生理学、精神薬理学の分野で単に実験的な使用が考えられているにすぎない。クロルプロマジンなどのフェノチアジン系薬物によって拮抗(きっこう)されることがわかっている。日本では1970年(昭和45)2月に、LSDとその塩類が麻薬に指定された。
[幸保文治]