日本大百科全書(ニッポニカ) 「麻酔銃」の意味・わかりやすい解説
麻酔銃
ますいじゅう
tranquillizer gun
野生の獣類を生け捕りにしたり、広い場所にいる飼育中の病獣を治療したりするときなどに、麻酔させるために使用する銃。わが国ではおもに牧場、動物園などで使われるほか、野犬捕獲人が使用する。圧縮した液化炭酸ガスを詰めた2本の小さなボンベが銃身の下方に取り付けられており、その圧力でアルミ製の皮下注射器を発射する。発射装置は圧縮(炭酸)ガス銃と同じである。ライフル型とピストル型とがあり、前者は有効射程50~100メートル、後者は約3メートル。注射器が命中すると針が刺さり、ピストンが押されてニコチン、アルカロイド等の麻酔剤が注射される。初期の麻酔銃は種々欠点があって失敗が多かったが、命中すると瞬間的に作用する方法が開発されて、1960年(昭和35)ごろから急激に普及した。薬液には速効性のものと遅効性のものとがあり、野獣では前者を、牧場や動物園の獣には後者を用いる。発射する薬液に対する動物の抵抗力は、種類や老幼によって異なるうえ、薬量が不足だと効くまでに遠くへ逃げてしまい捕獲しにくくなり、過多だと死んでしまうので、薬液の装填(そうてん)量の計算や射ち込む部位が微妙である。適量を推定する目安として、おもな獣について種類と薬量の一定比率が公表されている。一例をあげると、ウシ、シカなどは体重45キログラム当り1cc、イヌ、キツネ、サルなどは体重11キログラム当り1cc。野生下の一般野獣の場合は、撃ったとき小枝などの障害で外れることが少なくなく、腰、肩など安全な部位に打ち込むことがむずかしい。
[白井邦彦]