B級映画(読み)ビーきゅうえいが(英語表記)“B”movie

改訂新版 世界大百科事典 「B級映画」の意味・わかりやすい解説

B級映画 (ビーきゅうえいが)
“B”movie

ハリウッドの用語で,低額予算で製作される映画をさす。レコードのA面に対するB面と同じように,映画館のプログラムの表(メーン)になる“A”の作品に対して,裏の“B”の作品すなわち併映作品の意味であり,したがって〈2本立て興行〉が一般化したときからこの呼称と概念が生じたわけである。なお,〈2本立て〉のプログラムを埋めるために毎週量産される映画を意味する〈プログラム・ピクチャー〉という呼び名も生まれている。

 初期のトーキーのものめずらしさも薄れ,また大恐慌後の長びく不況の影響で,1930年代に入るとアメリカの映画観客が激減し,その対策として映画館では入場者に景品として皿を配る〈ディッシュ・ナイトdish night〉とか宝くじ抽籤会をやる〈バンク・ナイトbank night〉とかいった〈客寄せ〉の催しが盛んに行われたが,さらに32年には上映作品のプログラムを長編映画1本から2本に増やして充実させ,〈ダブル・ビルdouble bill〉あるいは〈ダブル・フィーチャーdouble feature〉と呼ばれる〈2本立て〉の興行が始まった。〈2本立て〉のメーンとなる“A”作品(“A”picture)に添えて併映されるのが“B”作品(“B”picture)で,〈セカンド・フィーチャーsecond feature〉あるいは〈サポーティング・フィーチャーsupporting feature〉などとも呼ばれ(日本語の〈添物〉映画にあたる),通常の〈フィーチャー(長編映画)〉が1時間半以上のものとすれば,これは55分から75分程度のものであり,ハリウッドのメジャー(大手)各社はそれぞれ特色あるスタイルの作品を製作し,のちに第一線で活躍することになる監督たち,例えばウィリアム・ワイラー,ジョージ・スティーブンズ,エドワード・ドミトリク,フレッド・ジンネマン,マーク・ロブソン,ロバート・ワイズ,アンソニー・マンなどの習作の場,〈テスト・グラウンド〉になった。

 しかし“B”作品はふつうの長編映画と違って歩合制ではなく一定の均一料金で配給されたため利益が少なく,当然ながらやがてメジャー各社は“B”作品の製作に熱意を失い始め,その結果,“B”作品はもっぱら〈マイナー〉のモノグラム,リパブリック,PRC,グランドナショナルマスコットティファニーなどの群小プロダクションで,製作費も撮影期間も限られた過酷な条件のもとに量産されることになった。シリーズものが多く,ありきたりのスリラー映画,犯罪メロドラマ,西部劇,低俗喜劇,怪奇・SF映画の類が主で,〈クイッキーquickie(やっつけ)〉と呼ばれる速成の安物映画としてジャーナリズムや批評家からは無視されたが,バック・ジョーンズ,ジーン・オートリー,ロイ・ロジャーズといった少年たちのアイドルになる人気カウボーイスターがB級西部劇から生まれ,犯罪もののチェスター・モリス,ターザン映画のジャック・マホニー,それにイブリン・キース,ニナ・フォック,マリー・ウィンザーといった女優も輩出(B級西部劇からスターになったジョン・ウェインのような例もある),さらにエドガー・ウルマーEdgar G.Ulmer(《黒猫》1934,《地中海の虎》1949),ジャック・ターナーJacques Tourneur(《キャット・ピープル》1942,《信疑の果て》1948),アンドレ・ド・トスAndré De Toth(《復讐の二連銃》1947,《肉の蠟人形》1953),ルドルフ・マテRudolph Mate(《都会の牙》1949,《地球最後の日》1951)といったB級監督によって〈語られざる傑作〉がつくられた。

 独占禁止法による製作部門と配給部門の分離,テレビジョンの興隆によって〈2本立て〉が終わりを告げるとともにB級映画も衰退して50年代半ばには姿を消したが(テレビのシリーズものに姿を変えたともみなされよう),モノグラムから派生したアライド・アーチスツやアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ(AIP)でさらに新しい〈低額予算映画〉が製作されつづけた。とくに,その後のAIPにおける製作者,監督としてのロジャー・コーマンRoger Corman(1926- )の活躍はめざましく,監督として《アッシャー家の惨劇》(1960),《忍者と悪女》(1963)など〈エドガー・アラン・ポーもの〉の連作をはじめ数々の怪奇映画やアクション映画をつくるとともに,プロデューサーとして〈低額予算映画〉を条件とすることにより,モンテ・ヘルマン,ダニエル・ホラー,フランシス・コッポラ,ピーター・ボグダノビッチ,デニス・ホッパー,マーティン・スコセッシなど新しい世代の〈映画作家〉を育てハリウッドに送った功績は大きい。

 アメリカのB級映画は,フランスで,とくに戦後の〈ヌーベル・バーグ〉の一派によって高く評価され,ジャン・リュック・ゴダールは最初の長編《勝手にしやがれ》(1959)を,〈バワリー・ボーイズ〉主演の非行少年ものからベラ・ルゴシ主演の怪奇映画,東洋人の名探偵《チャーリー・チャン》シリーズなどに至るまで,1940年代に年間30本以上も量産しつづけたB級映画会社モノグラムにささげていることはよく知られている。
プログラム・ピクチャー
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「B級映画」の意味・わかりやすい解説

B級映画
びーきゅうえいが
‘B’picture

アメリカで1930年代から1940年代にかけて量産されていた映画。日本では大型の予算をかけた大作などに対して、定期的に映画館に配給される作品をプログラム・ピクチャー、もしくはBクラス作品とよぶが、これとB級映画はかならずしも一致しない。アメリカでは、劇映画の2本立て興行が主流であった当時、メインとなるA級映画に対し、添え物的な位置を占める作品がB級映画とよばれていた。製作費や宣伝費をあまりかけず、出演俳優の知名度が低く、製作日数も短いのが特徴で、内容的にもなじみのあるジャンルから選んだ主題を焼き直したものが多い。しかしこれらのなかから、ジャック・ターナーJacques Tourneur(1904―1977)の『キャット・ピープル』(1942)を筆頭とするバル・リュートンVal Lewton(1904―1951)製作の恐怖映画など、映画史的に注目を集める作品も生まれてきている。

[奥村 賢 2022年6月22日]

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百科事典マイペディア 「B級映画」の意味・わかりやすい解説

B級映画【ビーきゅうえいが】

ハリウッド用語で,低予算で製作される映画のこと。レコードのA面に対するB面同様,1930年代より始まった2本立ての興行における,メイン作品に対する併映作品を指す。内容はスリラー,犯罪メロドラマ,西部劇,SF・怪奇物などが主体で,小プロダクションによって限られた制作費・撮影期間内で量産された。批評家からは無視されたが,のちに第一線で活躍する映画監督に習作の機会を与えたほか,悪条件を逆手に取った傑作も生み出された。テレビの普及などに伴い2本立てが廃止され,従来のB級映画は1950年代半ばに姿を消したが,ロジャー・コーマンらの低予算映画に受け継がれた。フランスのヌーベル・バーグ派が高く評価したことでも知られる。
→関連項目ホッパー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「B級映画」の意味・わかりやすい解説

B級映画
ビーきゅうえいが
B-picture

アメリカで 1930年代から 40年代にかけて量産されていた映画を指し,劇映画2本立ての興行が主流であった当時,メインとなるA級映画に対し,2次的な位置を占める作品。製作費や宣伝費をあまりかけず,出演俳優の知名度が低く,製作日数も短いのが特徴で,内容的にもなじみのあるジャンルから選んだ主題を焼き直ししたものが多い。しかしこれらの中から,V.リュートン製作のホラー映画など,芸術的に成功を収める作品も生まれている。また最近,研究者の間から,陰にあったB級映画を再評価しようとする動きも出てきている。日本では大型予算をかけた大作などに対し,定期的に映画館に配給される作品をプログラム・ピクチャー,もしくはBクラス作品と呼んでいるが,これとB級映画は必ずしも一致するわけではない。

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世界大百科事典(旧版)内のB級映画の言及

【SF映画】より


[H.G.ウェルズからB級映画へ]
 SF映画の歴史は,1895年,イギリスの作家H.G.ウェルズが彼の空想科学小説《タイム・マシン》(1895)のイメージを,友人の科学者R.ポールの協力のもとに,当時発明されたばかりの〈映画〉と幻灯を駆使して,遊園地のびっくりハウス的な幻覚ショーを催したときに始まる。これは一種の疑似体験としての世界最初の視聴覚メディアの実験でもあった。…

※「B級映画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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