イギリスの小説家。ウェールズ生まれ。わずか8歳で馬術競技会で優勝する。祖父はアマチュアの騎手、父はプロの騎手だった。第二次世界大戦では、空軍に入隊し、1946年に除隊すると、アマチュアの障害レース騎手になり、1948年にはプロに転向する。1953年から1954年にかけて障害レースの全英チャンピオンとなる。1957年に引退し、新聞社の競馬担当記者となった。同年、自伝『女王陛下の騎手』を発表。1962年、騎手時代の経験を生かして書かれたミステリー『本命』が大ヒットした。以後、『度胸』(1964)、『興奮』『大穴』(ともに1965)など、ほぼ年1作ずつ作品を刊行し続ける。作品はいずれも競馬を題材にしておりながら、背景、事件、テーマなどそれぞれに趣向がこらされ、加えて誇り高くストイックな主人公によるスリリングな活躍が描かれている。そのほか、名騎手レスター・ピゴットLester Keith Piggott(1935―2022)の伝記なども執筆している。また、『罰金』(1968)でMWA(アメリカ探偵作家クラブ)長編賞を受賞した。さらに『大穴』の片腕調査員シド・ハレーが再登場した『利腕』(1979)では、MWA長編賞、CWA(イギリス推理作家協会)ゴールド・ダガー賞を受賞し、三度ハレーが登場する『敵手』(1995)もまたMWA長編賞を受賞した。1973年から1974年には、CWA会長を務め、またその功績により、1989年にCWAダイヤモンド・ダガー賞、1996年にMWA巨匠賞を受賞している。世界各国で翻訳されており、日本での人気も高く、独自に編纂(へんさん)されたブックガイド『ディック・フランシス読本』が刊行されている。
[吉野 仁]
『菊池光訳『女王陛下の騎手』『本命』『度胸』『興奮』『大穴』『罰金』『利腕』『敵手』(ハヤカワ・ミステリ文庫)』▽『早川書房編集部編『ディック・フランシス読本』(1992・早川書房)』
イギリス生まれのアメリカの水力技術者。オックスフォードシャー、サウスレイに生まれ、工事請負人の父親の助手として、14歳から運河や港の築造に携わった。1833年アメリカに渡り、綿業の主要な動力源になったローウェル運河閘門(こうもん)の事業主ホイッスラーG. W. Whistler(1800―1849)のもとで製図工として働いた。最初の仕事はボストン・ローウェル鉄道のエンジン設計であった。1837年ホイッスラーの後任になると、水力装置の製造に乗り出し、ハウドSamuel B. Howdの特許をもとに内向き輻流(ふくりゅう)タービンの実験を開始。1851年フランシス型反動タービンを完成。1855年に出版した羽根車や吸出管の設計に関する実際的データは、長い間タービン設計の指針とされた。
[高橋智子]
アメリカの画家。カリフォルニア州サンマテオに生まれる。カリフォルニア大学では医学と心理学を学んだが、第二次世界大戦に空軍兵士として参戦。飛行機事故で負傷し、2年間の病床生活中に絵を描き始め、画家として再出発した。1947年から抽象的作風を示し、50年に渡仏してパリで頭角を現した。抽象表現主義の第二世代といわれ、アクション・ペインティングの作風で知られる。純白のカンバスに絵の具を垂らしたり飛び散らせたりするドリッピングの技法を用いた抽象絵画は、画面に茫洋(ぼうよう)とした広がりの感覚を生み、見る人の心理に純粋な詩的反応を引き起こす。57年以降はしばしば日本を訪れて制作したが、その後はカリフォルニアを中心に活動した。
[石崎浩一郎]
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