勝手にしやがれ(読み)カッテニシヤガレ(英語表記)A bout de souffle

デジタル大辞泉 「勝手にしやがれ」の意味・読み・例文・類語

かってにしやがれ【勝手にしやがれ】

原題、〈フランスÀ bout de souffle》フランスの映画。1960年公開の白黒作品。トリュフォー原案ゴダール監督・脚本によるヌーベルバーグ代表作ジャンプカットを多用し、既存の映画技法を無視した斬新な映像は、後の映画作品に多大な影響を与えた。第10回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞

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改訂新版 世界大百科事典 「勝手にしやがれ」の意味・わかりやすい解説

勝手にしやがれ (かってにしやがれ)
A bout de souffle

1959年製作のフランス映画で,〈ヌーベル・バーグ〉の金字塔的作品となったジャンリュック・ゴダール監督の長編映画第1作。自動車泥棒と警官殺しの犯人であるアナーキーな青年が,恋人のアメリカ娘に密告され警官に射殺されるまでを,原題(《息切れ》)そのままに鮮烈に息せき切ったリズムで描く。カットの時間の持続性やアクションつなぎを無視した編集(〈ジャンプカット〉と呼ばれる)は,ラウール・クータールの手持ちカメラによる移動撮影や写真用の高感度フィルムを使った照明なしの夜間撮影の効果とともに,〈即興演出〉のみずみずしい息吹を生かし,1941年のオーソン・ウェルズ監督《市民ケーン》のように(とフランソア・トリュフォーは分析している)革新的な映画話法を確立して,映画史の大きな曲り角の一つとなった。アメリカのB級映画会社〈モノグラム〉にささげられ,主人公の青年がハンフリー・ボガートにあこがれるなど,アメリカ映画へのオマージュとともに,ゴダール好みの数々の映画的引用(空港でインタビューをうけるジャン・ピエール・メルビル監督も含めて)がちりばめられている。主人公の青年を演じたジャン・ポール・ベルモンドはこれが初の主役で,出世作になった。その恋人役のジーン・セバーグはゴダールの敬愛するオットー・プレミンジャー監督の《悲しみよ今日は》(1957)から〈引用〉される形で,同じ髪形(いわゆる〈セシール・カット〉)のヒロインとして出演。フランソア・トリュフォー(原案),クロード・シャブロル(監修),そしてゴダール(監督)という〈ヌーベル・バーグの三銃士〉が映画のスタッフとして名を連ねていることでも知られるが,フィルムそのものにはメーンタイトルが出るだけで,スタッフ,キャストを記したクレジットタイトルがないという珍しい映画。1983年アメリカ映画《Breathless》として再映画化された。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「勝手にしやがれ」の意味・わかりやすい解説

勝手にしやがれ
かってにしやがれ
Au Bout de Souffle

フランス映画。1959年作品。ジャン・リュック・ゴダールの長編デビュー作であり、同年製作のクロード・シャブロル監督『いとこ同志』、フランソワ・トリュフォー監督『大人は判(わか)ってくれない』に続き、ヌーベル・バーグの名を世間に定着させ、さらに現在ではその象徴となった記念碑的作品。原題の意味は「息切れ」。車を盗み、行きがかりで警官を殺して逃避行を続けながらも、ミシェル(ジャン・ポール・ベルモンド)は女友達のパトリシア(ジーン・セバーグJean Seberg、1938―1979)にまとわりつき、おしゃべりに時を忘れる。しかしコミュニケーションは成立していない。編集を終えていたシーンの何か所かをあとから細かく除去したために生じたジャンプカット、ドラマのなかに他の映画の引用をあえて持ち込む姿勢など、一見プロとは思えない表現をあちらこちらに印象深く散りばめながら、刻々変化していく人間の意識のありさま、偶然と不条理の支配する実存的現実の肌触りをみごとに描いた。

[出口丈人]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「勝手にしやがれ」の意味・わかりやすい解説

勝手にしやがれ
かってにしやがれ
A Bout de Souffle

フランス映画。 1959年レ・フィルム・ジョルジュ・ド・ボールガール作品。監督ジャン=リュック・ゴダール,主演 J.-P.ベルモンド,J.セバーグ。自動車泥棒の一青年がパリで行きずりの女の子とベッドをともにするが,警官殺しで追われる彼は刑事に撃たれて死ぬ。現代青年の虚無感,挫折感,疎外感などを,手持ちのカメラで即興的に描いた作品。フランスのヌーベルバーグ映画の代表作。

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デジタル大辞泉プラス 「勝手にしやがれ」の解説

勝手にしやがれ

①1959年製作、1960年公開のフランス映画。原題《À bout de souffle》。ジャン=リュック・ゴダール監督の長編デビュー作。ヌーベルバーグの代表作のひとつ。出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ、ダニエル・ブーランジェほか。
②日本のポピュラー音楽。歌は男性歌手、沢田研二。1977年発売。作詞:阿久悠、作曲:大野克夫。第19回日本レコード大賞受賞。第10回日本有線大賞受賞。タイトル、内容は①にちなむ。

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世界大百科事典(旧版)内の勝手にしやがれの言及

【ゴダール】より

…クロード・シャブロル,トリュフォーに次いで,アンドレ・バザンの主宰する映画研究誌《カイエ・デュ・シネマ》の批評家から映画監督となる。長編第1作《勝手にしやがれ》(1959)は,カメラが現場で一瞬,一瞬すべてを創造していく新鮮な即興演出,カットつなぎを無視した大胆な編集,インタビューやモノローグをまじえた多彩な映像と言語の引用によるコラージュ的な構成などで人々に衝撃を与えた。この作品によって,一躍,ヌーベル・バーグの旗頭となり,以後,1年に2本の割合で次々に問題作を発表し,1960年代のもっとも個性的で,もっとも豊饒(ほうじよう)で,もっとも重要な映画作家となる。…

【ヌーベル・バーグ】より

…58年には14人,59年には22人の新人監督が長編映画の第1作を撮るという,かつてない激しい映画的波動がわき起こり,さらに60年には43人もの新人監督がデビュー,アメリカの雑誌《ライフ》が8ページの〈ヌーベル・バーグ〉特集を組むに至って,世界的な映画現象として認識されることになった。 こうしたフランス映画の若返りの背景には,国家単位で映画産業を保護育成する目的で第2次世界大戦後につくられたCNC(フランス中央映画庁)の助成金制度が新人監督育成に向かって適用されたという事情があるが,その傾向を促すもっとも大きな刺激になったのが,山師的なプロデューサー,ラウール・レビRaoul Lévy(1922‐66)の製作によるロジェ・バディムRoger Vadim(1928‐ )監督の処女作《素直な悪女》(1956)の世界的なヒット,自分の財産で完全な自由を得て企画・製作したルイ・マルLouis Malle(1932‐95)監督の処女作《死刑台のエレベーター》(1957)の成功,そしてジャン・ピエール・メルビル監督の《海の沈黙》(1948)とアニェス・バルダ監督の《ラ・ポワント・クールト》(1955)の例にならった〈カイエ・デュ・シネマ派〉の自主製作映画の成功――クロード・シャブロルClaude Chabrol(1930‐ )監督の処女作《美しきセルジュ》(1958),フランソワ・トリュフォー監督の長編第1作《大人は判ってくれない》(1959),ジャン・リュック・ゴダール監督の長編第1作《勝手にしやがれ》(1959)――であった。スターを使い,撮影所にセットを組んで撮られた従来の映画の1/5の製作費でつくられたスターなし,オール・ロケの新人監督の作品が次々にヒットし,外国にも売れたのであった。…

※「勝手にしやがれ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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