1959年製作のフランス映画で,〈ヌーベル・バーグ〉の金字塔的作品となったジャン・リュック・ゴダール監督の長編映画第1作。自動車泥棒と警官殺しの犯人であるアナーキーな青年が,恋人のアメリカ娘に密告され警官に射殺されるまでを,原題(《息切れ》)そのままに鮮烈に息せき切ったリズムで描く。カットの時間の持続性やアクションつなぎを無視した編集(〈ジャンプカット〉と呼ばれる)は,ラウール・クータールの手持ちカメラによる移動撮影や写真用の高感度フィルムを使った照明なしの夜間撮影の効果とともに,〈即興演出〉のみずみずしい息吹を生かし,1941年のオーソン・ウェルズ監督《市民ケーン》のように(とフランソア・トリュフォーは分析している)革新的な映画話法を確立して,映画史の大きな曲り角の一つとなった。アメリカのB級映画会社〈モノグラム〉にささげられ,主人公の青年がハンフリー・ボガートにあこがれるなど,アメリカ映画へのオマージュとともに,ゴダール好みの数々の映画的引用(空港でインタビューをうけるジャン・ピエール・メルビル監督も含めて)がちりばめられている。主人公の青年を演じたジャン・ポール・ベルモンドはこれが初の主役で,出世作になった。その恋人役のジーン・セバーグはゴダールの敬愛するオットー・プレミンジャー監督の《悲しみよ今日は》(1957)から〈引用〉される形で,同じ髪形(いわゆる〈セシール・カット〉)のヒロインとして出演。フランソア・トリュフォー(原案),クロード・シャブロル(監修),そしてゴダール(監督)という〈ヌーベル・バーグの三銃士〉が映画のスタッフとして名を連ねていることでも知られるが,フィルムそのものにはメーンタイトルが出るだけで,スタッフ,キャストを記したクレジットタイトルがないという珍しい映画。1983年アメリカ映画《Breathless》として再映画化された。
執筆者:松岡 葉子+広岡 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス映画。1959年作品。ジャン・リュック・ゴダールの長編デビュー作であり、同年製作のクロード・シャブロル監督『いとこ同志』、フランソワ・トリュフォー監督『大人は判(わか)ってくれない』に続き、ヌーベル・バーグの名を世間に定着させ、さらに現在ではその象徴となった記念碑的作品。原題の意味は「息切れ」。車を盗み、行きがかりで警官を殺して逃避行を続けながらも、ミシェル(ジャン・ポール・ベルモンド)は女友達のパトリシア(ジーン・セバーグJean Seberg、1938―1979)にまとわりつき、おしゃべりに時を忘れる。しかしコミュニケーションは成立していない。編集を終えていたシーンの何か所かをあとから細かく除去したために生じたジャンプカット、ドラマのなかに他の映画の引用をあえて持ち込む姿勢など、一見プロとは思えない表現をあちらこちらに印象深く散りばめながら、刻々変化していく人間の意識のありさま、偶然と不条理の支配する実存的現実の肌触りをみごとに描いた。
[出口丈人]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…クロード・シャブロル,トリュフォーに次いで,アンドレ・バザンの主宰する映画研究誌《カイエ・デュ・シネマ》の批評家から映画監督となる。長編第1作《勝手にしやがれ》(1959)は,カメラが現場で一瞬,一瞬すべてを創造していく新鮮な即興演出,カットつなぎを無視した大胆な編集,インタビューやモノローグをまじえた多彩な映像と言語の引用によるコラージュ的な構成などで人々に衝撃を与えた。この作品によって,一躍,ヌーベル・バーグの旗頭となり,以後,1年に2本の割合で次々に問題作を発表し,1960年代のもっとも個性的で,もっとも豊饒(ほうじよう)で,もっとも重要な映画作家となる。…
…58年には14人,59年には22人の新人監督が長編映画の第1作を撮るという,かつてない激しい映画的波動がわき起こり,さらに60年には43人もの新人監督がデビュー,アメリカの雑誌《ライフ》が8ページの〈ヌーベル・バーグ〉特集を組むに至って,世界的な映画現象として認識されることになった。 こうしたフランス映画の若返りの背景には,国家単位で映画産業を保護育成する目的で第2次世界大戦後につくられたCNC(フランス中央映画庁)の助成金制度が新人監督育成に向かって適用されたという事情があるが,その傾向を促すもっとも大きな刺激になったのが,山師的なプロデューサー,ラウール・レビRaoul Lévy(1922‐66)の製作によるロジェ・バディムRoger Vadim(1928‐ )監督の処女作《素直な悪女》(1956)の世界的なヒット,自分の財産で完全な自由を得て企画・製作したルイ・マルLouis Malle(1932‐95)監督の処女作《死刑台のエレベーター》(1957)の成功,そしてジャン・ピエール・メルビル監督の《海の沈黙》(1948)とアニェス・バルダ監督の《ラ・ポワント・クールト》(1955)の例にならった〈カイエ・デュ・シネマ派〉の自主製作映画の成功――クロード・シャブロルClaude Chabrol(1930‐ )監督の処女作《美しきセルジュ》(1958),フランソワ・トリュフォー監督の長編第1作《大人は判ってくれない》(1959),ジャン・リュック・ゴダール監督の長編第1作《勝手にしやがれ》(1959)――であった。スターを使い,撮影所にセットを組んで撮られた従来の映画の1/5の製作費でつくられたスターなし,オール・ロケの新人監督の作品が次々にヒットし,外国にも売れたのであった。…
※「勝手にしやがれ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新