KuToo運動(読み)くつーうんどう//くーとぅーうんどう

知恵蔵 「KuToo運動」の解説

KuToo運動

女性に対して、職場で着用する靴にハイヒールパンプス(甲が浅くヒールがある靴)を強制することを禁止するよう求める運動。1人の女性のツイートをきっかけに議論が広がり、「靴」、「苦痛」の語とインターネットを介して高揚した性被害を告発する「#MeToo運動」をもじった「#KuToo」のハッシュタグが使われる。2019年6月には、インターネット上で集まった2万近い署名と要望書を厚生労働省に提出した。
運動の発端となったのは俳優の石川優実で、グラビアモデルや舞台、映画出演などの経歴を持ち、自ら体験した芸能界のセクハラ事情を告発して#MeToo運動に積極的にかかわってきた。かつてアルバイトをしたときに、パンプスを履いて仕事をするのが苦痛であった経験やパンプスを強要する風習をなくしたいとの思いをツイッターにつづった。これが共感を呼び、自身の切実な健康被害を訴える意見や、女性にのみ強いられる差別的なハラスメントだとの意見なども次々と寄せられた。こうした声を集めて、インターネットのキャンペーンサイトでオンライン署名が開始され、労働団体でも政治団体でもなく一個人からスタートした運動が大きな反響を巻き起こした。
ヒールの高い靴を着用することは、アキレス腱に大きな負担をかけ、足の痛みや皮膚の損傷を招いたり、外反母趾(ぼし)、足や背骨の関節の圧縮、腰痛を引き起こしたりするとされる。また、転倒やそれに伴う負傷などのリスクもある。それにもかかわらず、女性社員のハイヒールやパンプスが、相当数の企業で就業規則、服装規定に定められていたり、明文化されないまでも「職務上の常識」や「社会通念」であるなどとして着用の強制が公然とまかり通っている。英国でも、仕事場でハイヒールを履くことを拒否した女性が解雇されるという事件が発生した。同国では、10万人以上の請願があれば下院議会で審議するという決まりがある。これを大きく上回るオンライン請願が集まり、請願委員会は性別に基づく服装規定は性差別であり違法との意見書を提出した。米国やカナダでも、性別に基づいたドレスコードは人権の観点から認められないとする州法が成立したり、ガイドラインが発表されたりしている。
厚労省の根本匠大臣は、衆議院厚労委員会で同省に出された要望書の受け止めについての質問に、着用の義務付けは「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」などと述べ、「強制されるものではない」とする高階恵美子副大臣とは相違を見せた。同省雇用機会均等課は、答弁翌日のマスコミ取材に対し強制を容認するものではないが、強制禁止の法制化は現状では考えていないとした。

(金谷俊秀 ライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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