家庭医学館 「外反母趾」の解説
がいはんぼし【外反母趾 Hallux Valgus】
外反母趾とは、足の親指(母趾(ぼし)、第1趾(だいいっし))が、指のつけ根の関節(中足趾節間関節(ちゅうそくしせつかんかんせつ)、MTP関節とも呼ばれる)の部分で、外側へ曲がった(外反した)状態をいいます。
単に親指が外反する、というだけではなく、親指のつけ根のもとにある骨(第1中足骨)は反対側に曲がり(内反)、親指に連なる骨全体は、ひらがなの「く」の字のようになっているのが特徴です。
靴を長い時間はくようになった生活環境が、外反母趾の発症の要因として重要であると考えられています。図「外反母趾の原因」
ヨーロッパでは、一般市民が靴を常用するようになった18世紀後半から、外反母趾の患者が急増したといわれ、以前は、西欧人に多いといわれていましたが、日本でも、靴が常用されるようになった1950年代から、外反母趾が増加しています。
[症状]
親指のつけ根のMTP関節で指が外反し、MTP関節の内側が突出します。
関節には、動きを滑らかにする滑液包(かつえきほう)という液体の入った袋があり、これが靴などで圧迫されると、バニオンと呼ばれる滑液包炎がおこり、赤く腫(は)れたり、疼痛(とうつう)がおこります。
また、この親指の変形は、第2趾、第3趾にも影響をおよぼし、それらのMTP関節の足底部に、痛みをともなう「たこ」(有痛性胼胝(ゆうつうせいべんち))ができることがあります。
[原因]
外反母趾は、圧倒的に女性に多くみられることから、性的素因が関係しているようです。
年齢でみると、10歳代におこるものと、40歳代の中年期以降におこるものがあります。
10歳代におこる外反母趾は、同じ家族内に発生することが多く、このため、遺伝的素因が関係していると考えられています。
足の形の特徴としては、横アーチの低い扁平足(へんぺいそく)や、第2趾より親指(母趾)のほうが長い足(エジプト型足趾)の人に多くみられるようです。
もっとも重要な原因は履き物で、とくに先のとがったハイヒールをはくと、足先に体重が集中するため、第1中足骨は内反し、親指自体は外反せざるをえなくなります(開張足)。
中年期以降では、体重の増加と筋力の低下がおこりやすく、こうした変形を助長します。
そのほか、炎症(慢性関節リウマチ、痛風(つうふう))、まひ、関節弛緩(かんせつしかん)(関節がやわらかすぎること)も原因になります。
[検査と診断]
視診で、外反母趾と診断できますが、その程度は、荷重をかけたときの足のX線写真で計測をして判定します。
これはふつう、外反母趾角および第1、第2中足骨間角を計測して調べます。(図「外反母趾のX線学的計測角」)
[治療]
痛みのある人には、痛み止めの飲み薬、貼り薬が用いられます。
外反母趾の程度が軽い人や、変形があっても痛みなどの自覚症状のない人、変形が強くても手術を好まない人に対しては、装具や運動などによる保存的治療を行ないます。
装具には、親指(第1趾)と第2趾の間に入れる矯正具(きょうせいぐ)(趾開排装具(しかいはいそうぐ)(図「趾開排装具」))、足底板によるアーチサポート、夜間矯正装具などがあります。
また、外反母趾では筋力が低下しているので、足の筋力強化を行ない、進行を防止します。
痛みが強い場合や、変形が強いときは、手術を行ないます。
ふつう、骨以外の軟部組織で矯正する手術や、中足骨の骨切り術が行なわれます。
[予防]
変形がひどくなれば、手術でしか矯正できませんので、変形が軽いうちに進行を防ぐようにすることがたいせつです。
自分の足に合った適切な靴を選ぶようにし、靴をはく時間もなるべく短くします。
標準体重以上の人は、減量して、足にかかる負担を軽くします。足の筋力強化も、予防に有効です。