Lewy小体型認知症

内科学 第10版 「Lewy小体型認知症」の解説

Lewy小体型認知症(大脳変性疾患)

(2)Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)
定義・概念・分類
 Lewy小体型認知症(DLB)は大脳におけるLewy小体の存在を特徴とする認知症である.一方,Parkinson病(PD)は脳幹におけるLewy小体の存在を特徴とするが,PDの長期経過後に認知症を発症した場合は,認知症を伴うPD(PD with dementia:PDD)とよばれる.
 Lewy小体病はLewy小体の存在を特徴とするすべての病態を包括する疾患概念である.Lewy小体病には,DLB,PD/PDD以外にも,自律神経症状で発症するタイプ[純粋自律神経不全症(pure autonomic failure:PAF)],REM期睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)で発症するタイプなど,多彩な臨床病型がある.
病因・病理・病態生理
 DLB脳にはリン酸化αシヌクレイン凝集物を主成分とするLewy小体およびLewy神経突起が広汎に分布している(図15-6-6A).高度の認知症症状を有するDLBでは,こうしたLewy関連病理大脳皮質に広範囲に分布し,しばしばAlzheimer病(Alzheimer’s disease:AD)型病理(特にアミロイドβ蛋白沈着)を随伴する.Lewy関連病理はPDと同様に黒質などの脳幹にもみられる.Lewy小体病の病変進展形式として①延髄から上行するタイプ,②扁桃核から大脳皮質あるいは脳幹へ進展するタイプ,③大脳皮質から脳幹方向に下降していくタイプなどが推定されており,進展形式の多様性がDLBとPDDとの経過の違いを含むLewy小体病の表現型の多様性をもたらしていると考えられている.
 αシヌクレインはシナプス前終末に豊富に発現し,シナプス小胞と関連し,シナプス機能に関与している.遺伝性Lewy小体病でみられるαシヌクレイン遺伝子異常や翻訳後修飾(リン酸化,ニトロ化など)が凝集に影響することが報告されている.
疫学
 DLBは認知症全体の約15~20%を占め,血管性認知症と並んでADについで頻度の高い認知症の原因疾患である.
臨床症候
 進行性認知障害を中心に,注意や覚醒レベルの顕著な変動を伴う認知機能の動揺,パーキンソニズム,繰り返す具体的な幻視(ヒト,小動物,虫が多い),うつ症状,妄想,アパシーなどの精神症状とそれらに関連する行動症状[行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)],転倒や失神の病歴,REM睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)(悪夢をみて暴れる),抗精神病薬に対する過敏性,自律神経障害(起立性低血圧,尿失禁など)などの特徴を示す.認知障害は注意障害,視空間障害,構成障害など前頭葉・頭頂葉機能障害に由来する症状が強い.認知症はDLBの中心的な症状ではあるが,病初期には必ずしも認知症症状は前景に立たず,うつ症状などの精神症状が目立つことがある.
検査成績
 頭部MRIでは内側側頭葉の萎縮はADほど目立たない場合が多い.脳血流SPECT,糖代謝PETでは,後頭葉の血流低下,代謝低下がみられる.DLBでは末梢自律神経系にもαシヌクレインが蓄積し交感神経節後線維も障害されるため,心臓交感神経検査である123I-メタヨードベンジルグアニジン(MIBG心筋シンチグラフィでMIBG取り込みが低下する(図15-6-6B,C).
診断・鑑別診断
 特徴的な臨床症候に基づき検査所見を参考に診断する.進行性の認知障害に加え,認知機能の変動,幻視,パーキンソニズムの3つの中核症状のうち2つ以上がみられれば,臨床的にほぼ確実なDLBである.中核症状以外では,RBD,抗精神病薬による過敏性,うつ症状・妄想などのBPSD,自律神経症状などに注目する.おもな鑑別診断の対象には,AD,血管性認知症,進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症などのパーキンソニズムと認知症を呈する疾患,Creutzfeldt-Jakob病などがある.
経過・予後
 認知障害,運動障害,BPSD,自律神経症状などの多彩な症状が進行する.ADに比べて進行が速く,発症後の平均生存期間は10年未満である.
治療
 DLBではアセチルコリン系,ドパミン系,セロトニン系などが障害されやすく,それらに基づく神経精神症候を呈することから,それらの神経伝達機能を修飾する薬物が用いられる.認知障害やBPSDに対してコリンエステラーゼ阻害薬,パーキンソニズムに対してレボドパなどを用いる.また,BPSD,運動障害,自律神経症状などを随伴するDLBでは,ケアやリハビリテーションなどの非薬物療法が重要である.Lewy関連病理そのものを標的とする疾患修飾療法は現在なく,研究開発が行われている.[山田正仁]
■文献
McKeith IG, et al: Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies. Third report of the DLB consortium. Neurology, 65: 1863-1872, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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