日本大百科全書(ニッポニカ) 「UHFテレビ放送」の意味・わかりやすい解説
UHFテレビ放送
ゆーえいちえふてれびほうそう
UHF television broadcasting
UHF帯(極超短波帯、周波数300~3000メガヘルツの帯域)の電波を使うテレビ放送。
アナログUHFテレビ放送
日本のテレビ放送は1953年(昭和28)2月にNHKがVHF帯(超短波帯、周波数30~300メガヘルツの帯域)の地上波を使ってアナログ放送を開始したのに始まる。同年8月に日本テレビ(NTV)が開局し、1964年の東京12チャンネル(TX、現在のテレビ東京)の開局でキー局が出そろったが、VHFテレビの周波数割当ては、ローバンド(周波数90~108メガヘルツ)3チャンネル(チャンネル番号1~3)とハイバンド(周波数170~222メガヘルツ)9チャンネル(チャンネル番号4~12)の、あわせて12チャンネルしかなかった。そのため、すきまなく配置された隣接チャンネル間で電波干渉障害がおこったり、テレビ局数を増やして放送の多様化を図ることが困難であったりするなどの問題が生じていた。これらの問題を打開するために、1961年3月に当時の郵政省(現、総務省)がテレビ放送用周波数の割当計画基本方針を見直し、電波に余裕があり、多数の放送チャンネルを設定できるUHF帯の電波を使う地上波テレビの検討がなされるようになった。UHFテレビの用途は、当初は難視聴地域の解消および地域ごとの局地的な放送サービスに限定されて始まったが、数次の修正を経て、1967年にこの限定が解除され、親局・中継放送局の区別なく、すべての放送局で使えるようになった。UHFテレビの周波数割当ては、470~770メガヘルツ帯域の50チャンネル(チャンネル番号13~62)である。1968年2月に日本で最初のNHKのUHFテレビ放送局が開局、同年8月に独立UHFテレビ放送局(大きなキー局の系列に属さない放送局)岐阜テレビが開局したのを皮切りに、UHFテレビ放送は増えていった。いずれもアナログ放送である。
[吉川昭吉郎]
地上デジタル放送
アナログ放送の時代、VHFは全国放送、UHFは難視聴地域対策の中継放送および地域放送という使い分けが行われていたが、1997年(平成9)に郵政省(現、総務省)は電波の有効利用を図るため、VHF放送を廃止して、UHFを使用するデジタル放送で全国放送を行う構想を打ち出した。これが地上デジタル放送(「地デジ」と略称される)である。地上デジタル放送は、2003年(平成15)12月から東京、大阪、名古屋のNHK放送、および民放19社によって開始された。当初、2011年7月までにアナログテレビ放送をすべて停波して、地上デジタル放送に完全移行する計画であったが、一部の地域で遅れが出たため、2012年3月に移行が完了した。これで長い歴史をもつアナログテレビ放送は幕を閉じた。現在、日本の地上デジタル放送はISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial、統合デジタル放送サービス‐地上用)方式とよばれる規格で行われている。この規格はNHKが中心となって開発したもので、日本のほかフィリピンで、また若干の変更を加えた国際版が中南米諸国で採用されている。地上デジタル放送では、放送用に割り当てられたUHF13~62チャンネルのうち、13~53チャンネルを利用する。地上デジタル放送に移行後空き帯域になったVHF1~12チャンネルとUHF53~62チャンネルの電波は、デジタルラジオ、携帯電話(700メガヘルツ帯プラチナバンド)、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)などに利用することとなった(デジタルラジオは2011年3月終了)。首都圏の地上デジタル放送は、開始当初は東京タワーのUHF送信アンテナを使って行われたが、2013年5月からNHKおよび大部分の民放の送信は東京スカイツリーのUHF送信アンテナに移行した。2014年時点では、放送大学のみが東京タワーのUHF送信アンテナを使用している。全国を視聴可能とするため、膨大な数のUHFテレビジョン中継放送局が全国に配置されている。地上デジタル放送の各チャンネルには6メガヘルツの帯域が割り当てられているが、帯域は13のセグメント(部分、分割の意)に分けられ、高品位のHDTV(ハイビジョン)放送では12セグメントが、NTSC品位の放送では4セグメントが、また携帯電話(スマートフォンを含む)、カーナビゲーションシステムなどで経済性を優先する場合は1セグメント(俗称「ワンセグ」)が使われる。
UHF帯の電波はVHF帯より光に近い性質(直進性)が強いため、山、丘、ビルなどで遮られた場合は、ほとんど受信できなくなる。したがって、受信アンテナは送信アンテナから見通しのきく場所に設置する必要があり、同じ送信電力で電波を発射してもサービスエリアはVHF帯に比較して狭くなる。しかし受信アンテナがVHFより小型ですむこと、自動車の点火プラグや電気溶接などから発射される人工雑音がUHF帯では相当弱いので、雑音の少ない良好な画質が得られること、などの利点がある。
[吉川昭吉郎]
送信設備
大・中電力用アンテナには双ループアンテナ、螺旋(らせん)アンテナ、反射板付きダイポールアンテナなどが用いられ、微小電力には必要に応じて3素子、5素子、8素子などのリングアンテナが用いられることが多い。UHF用送信機は本質的にVHF用と変わりないが、15~50メガヘルツの中間周波数帯の搬送波を映像信号で変調し、これを周波数変換してUHF帯の信号を得たのち、増幅する形式のものが多い。増幅器には四極管、進行波管、クライストロンなどが用いられ、とくにクライストロンは大電力用である。小電力、微小電力用にはトランジスタ増幅器が用いられる。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]
受信設備
アンテナには八木‐宇田アンテナ、リングアンテナなどが多く用いられる。素子数は8~26程度で、VHFより一般に小型ですむ。UHFテレビ放送開始当時は、VHFチャンネルだけ受信する受像機が普及していたため、UHFの電波をVHFに変換するU/Vコンバーターを使用し、出力が受像機に加えられたが、現在では一つの受像機にVHF、UHFの全チャンネルを受信できるものが普及している。
[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]