ISDB-T方式(読み)あいえすでぃーびーてぃーほうしき

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

日本が開発した地上デジタルテレビジョン放送方式。ISDB-TはIntegrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial(統合デジタル放送サービス‐地上用)の頭文字をとったもので、ISDBファミリーのうち、地上デジタル放送に関する規格である。NHK(日本放送協会)が中心となって作成されたもので、国際的な標準規格として承認されている。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

地上アナログ放送から地上デジタル放送へ

日本における地上波テレビ放送は、1953年(昭和28)の放送開始以来、長い間VHF帯(超短波帯)の電波を使ったアナログ方式で行われていた。初期の白黒時代から後のカラー時代まで、一貫してNTSC方式による標準画質の放送であった。デジタル技術の発達によって、デジタルテレビ放送が可能となり、2003年(平成15)にUHF帯(極超短波帯)の電波を使う地上デジタル放送が開始された。電波の有効利用とHDTV(ハイビジョン)の高画質放送が目的である。地上デジタル放送は順調に成長・普及し、2012年のアナログ放送完全停波(電波の放出を停止すること)によって、地上デジタル放送化が完了した。

 テレビ放送の規格は世界的に統一されることが理想であるが、政治的、技術的な問題があって、この実現はきわめてむずかしい。アナログ放送の時代は、NTSC方式(アメリカ、日本など)、PAL(パル)方式(ドイツなど、ヨーロッパ諸国)、SECAM(セカム)方式(フランスなど)の3方式が並存した。地上デジタル放送の時代になってからは、ISDB-T方式およびその派生型(日本、フィリピン、中南米諸国など)、ATSC方式(アメリカ、カナダ、メキシコ、韓国など)、DVB-T/DVB-T2方式(ヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカなど)、DTMB方式(中国)などの諸方式が並存している。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

ISDB-T方式の概要(日本)

本項目では日本におけるISDB-T方式の運用について解説する。

 ISDB-T方式による日本の地上デジタル放送は、UHF帯(極超短波帯)の周波数470~710メガヘルツを利用し、この帯域内にチャンネル番号13~52まで40個のチャンネルを設けている。この40個のチャンネルは物理チャンネルとよばれる。視聴の便宜のために、この物理チャンネルとは別にリモコンチャンネル番号が設けられ、視聴に際してはこれを用いる。たとえば、関東地区ではNHK総合はリモコンチャンネルボタン1、マルチチャンネル放送が行われている場合はさらにチャンネル番号011、012、013を選ぶ。物理チャンネルはチャンネル27であるが、リモコン選局にあたってこれが表に出ることはない。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

ISDB-T方式のおもな仕様

ISDB-T方式には先進技術が採用され、他の地上デジタル方式に比べて多くの長所がある。おもな仕様と長所は次の通りである。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

チャンネルのセグメント化(区分化)

一つの放送チャンネルをセグメントとよばれる複数の区分に分割して利用する技術である。

〔1〕セグメント化の概要 一つのチャンネルの帯域幅は6メガヘルツであるが、これをセグメントとよぶ13の区分に分割して利用する。各セグメントの帯域幅は約429ヘルツである。セグメントを分割する利点は、一つのチャンネルを目的によってさまざまに使い分けることができることにある。現在使われているのは次の2種類である。

(1)固定テレビジョン用の高品質放送 中心の7番目のセグメントを除く1~6と8~13の12個のセグメントを使い高品質のハイビジョン放送を行うもの。次のワンセグとの対比でフルセグメント、または略してフルセグとよばれることもある。

(2)移動端末機(モバイル端末機)用の簡易放送 中心の7番目のセグメント1個だけを使い、携帯電話、カーナビゲーションなどを対象とする放送を行うもの。経済性優先であるが、画質は小型画面には十分である。一つのセグメントだけを使うので、ワンセグメント、略してワンセグとよばれ、ISDB-T 1-segと特記されることもある。

 テレビジョン放送と移動端末機用放送が同一の送信局、同一のチャンネルでまかなえることはISDB-T方式の大きな利点で、移動端末機受信に特別の付加料金はかからない。ちなみにアメリカのATSC方式では、移動端末機用放送のためにテレビジョン放送とは別の送信局と別のチャンネルを使う必要があり、そのコスト負担のため移動端末機受信は有料になる。

 フルセグ放送とワンセグ放送とは同じ内容の番組で放送されることが多いが、別番組とすることもできる。

〔2〕セグメントのさまざまな運用法 セグメントの使い方には、前記の現行2種類のほか、必要に応じて、4個のセグメントを使っての標準画質(NTSC画質相当)の3番組放送、8個のセグメントを使っての中画質と4個のセグメントを使っての標準画質の2番組放送、さらに13個のセグメントすべてを使っての現行ハイビジョンを上回る超高画質放送など、さまざまな利用法が可能である。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

マルチキャリア(複数搬送波)

一つのチャンネルを単一のキャリア(搬送波。情報をのせて伝える電波)で送信するのではなく、複数(多数)のキャリアを用いて送信する技術である。1チャンネル当りの総キャリア数は、1セグメント当りのキャリア数432にセグメント数13を掛けたものに、予備1個を加えた5617となる。

 日本の都市部のように、多くの高層ビルが林立している場合には、マルチパス(多重波伝搬。高層建築物などで反射された複数の電波が時間差を伴って本来の電波に重なって到達する現象)のおきる可能性がきわめて高い。マルチキャリア方式では多数のキャリアを用いるため、マルチパスによる障害を克服することができて、安定した受信が保たれる。ISDB-T方式の大きな長所である。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

インターリーブ

インターリーブとは、雑音などによってデジタル信号の符号列が乱れた場合、これを元の正しい符号列に直す処理技術である。ISDB-T方式では、周波数インターリーブと時間インターリーブという2種類を使うことで、雑音に強いシステムを得ている。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

データ放送

テレビ放送に重ねて種々のデータを送信するもの。番組に関連するデータ放送の例として、クイズ番組放送でのクイズ出題などがあり、番組に直接関連しないデータ放送の例として、天気予報、地震・津波情報の周知などがある。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

双方向放送

放送局から視聴者への一方的な番組提供だけでなく、視聴者から放送局に通信することで番組に参加できる双方向性をもった放送(双方向放送)に対応している。これによって放送局と視聴者のコミュニケーションが増大する利点がある。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

緊急警報放送

地震や津波などが発生し災害が予測される場合、放送波でテレビを起動し情報を伝達するとともに、避難勧告などの適切な助言を行う放送。受信機が受信状態である必要はない。緊急警報放送機能をもつ地上デジタル放送は、ISDB-T方式だけである。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

ISDB-T方式の派生規格

地上デジタル音声放送(地上デジタルラジオ)用として、ISDB-TSB(ISDB-T for Sound Broadcasting、ISDB-地上用-音声放送)という規格がある。1個のセグメントまたは3個のセグメントを使い、高音質な音声、マルチチャンネル音声放送、5.1サラウンド音声放送、静止画や簡単な動画などのデータ放送など、アナログのラジオ放送にない多機能をもつ将来型ラジオとして開発された。2003年に東京と大阪で実用化試験放送が開始されたが、需要の伸びが見込めず、2010年に大阪で、2011年に東京で、それぞれ終了している。2015年時点では、今後の計画は示されていない。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

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