改訂新版 世界大百科事典 「ANZAC」の意味・わかりやすい解説
ANZAC (アンザック)
オーストラリア・ニュージーランド軍団Australian and New Zealand Army Corpsの略称。厳密には第1次大戦中の1915年4月25日,トルコのガリポリ(ゲリボル)半島上陸作戦に参加した将兵を指し,広義には第1次および第2次大戦参加者も含む。毎年4月25日は両国ともアンザック・デーとして公休日で,ガリポリ生残りの老兵を中心に各戦闘参加部隊単位で隊旗を押したて行進する。日常活動はRSL(復員兵連盟)が行うが,この組織とアンザック戦没者記念碑は両国のどんな片田舎にもあり,右翼的心情の結節点となっている。第1次大戦当時人口500万弱にすぎなかったオーストラリアが実に8万もの戦死者を出してはるか離れた〈母国〉のために戦った裏には,アジア最南端の白人国として白豪主義を掲げ,国民精神を結像させる象徴をアジア以外に求めようとした病理が潜んでいた。イギリス系やアイルランド系以外の移民が増えた近年では,アンザックのように戦う,という威勢のよさは過去のものとなり,アンザック・デーが人生に挫折したイギリス系・アイルランド系白人の不満のはけ口になってきたありさまは,アラン・シーモアの戯曲《一年のこの一日》(1960)に詳しい。
執筆者:越智 道雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報