eラーニングとICT活用教育(読み)イーラーニングとアイシーティーかつようきょういく(英語表記)e-Learning and education using information and communication technology

大学事典 の解説

eラーニングとICT活用教育
イーラーニングとアイシーティーかつようきょういく
e-Learning and education using information and communication technology

用語定義

日本で「eラーニング(e-Learning)」という言葉が使われるようになるのは,欧米より少し遅れて2000年代初頭であり,以後,eラーニングを冠する書籍が相次いで出版され,2001年から2008年まで『eラーニング白書』(日本イーラーニングコンソシアム編,東京電機大学出版局)が刊行された。また,大規模な展示会も毎年開催された。それは,1980年代の「CAI(コンピュータ支援教育:Computer-Aided Instruction)」や90年代の「マルチメディア教育」の延長線上に位置づけられるコンピュータの教育利用の一大ブームであった。

 eラーニングは初・中等教育から高等教育までの学校教育はもちろん,企業内教育においても広く活用されたことから,その定義は多様である。また,「オンライン教育」「ネットラーニング」「Web-Based Training: WBT」など,類似の多くの用語との違いも明確ではない。しかし,eラーニングの「e」がeメールと同じelectronic(電子的な)の「e」であることを考えれば,eラーニングはそれまでのスタンドアローンのコンピュータによる自学自習とは異なり,インターネットを介して提供されるデジタルコンテンツを使い,双方向で行われる教授・学習過程であると定義することができる。

 しかし,2000年代後半,インターネットが日常生活のあらゆる場面に浸透し,大学のICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)化も急激に進んだことで,eラーニングの実施は大学にとって特別なことではなくなった。そのため,現在ではより大きな概念である「ICT活用教育」の中に組み込まれて言及されるようになっていると考えられる。

環境整備と取組支援]

2000年代,eラーニングの普及・推進は,国の重要な政策課題としても取り扱われた。2001年に内閣に設置された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部,いわゆるIT戦略本部が03年8月に発表した「e-Japan 重点計画―2003」では,ITを活用した遠隔教育を推進していく必要があるとして,「2005 年度までに,ITを活用した遠隔教育を実施する大学学部・研究科を2001年度の約3倍とすることを目指し,遠隔教育を可能とするための環境整備を行う」と述べている(「e-Japan―2003」IT戦略本部)。eラーニングという言葉は使われていないが,「遠隔教育」はそれと同義である。

 そして,文部科学省が実施した「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」では,募集テーマの一つに「ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning)(2004年度),「ニーズに基づく人材育成を目指したe-Learning Programの開発」(2005年度)が設定されるなど,eラーニングの推進に財政支援も行われた。

 また2006年には,国立大学法人熊本大学大学院社会文化科学研究科にeラーニングを開発・実施・評価できる高度専門職業人,すなわちeラーニングの専門家の養成を目的とする教授システム学専攻も設置された。さらに文部科学省内に置かれた「国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議」が2004年3月に提出した,「国境を越えて教育を提供する大学の質保証について―大学の国際展開と学習機会の国際化をめざして―〈審議のまとめ〉」では,日本の大学が学位につながる本格的なeラーニングを海外に展開することを今後の課題として提言している。

[現状と課題]

放送大学学園が文部科学省の先導的大学改革推進委託事業として実施した「ICT活用教育の推進に関する調査研究」(2011年3月)によれば,2010年度,eラーニングまたはICT活用教育を重要と考えている学部研究科は81.8%に達しており(「十分」と「ある程度」の合計),ICT活用の重要性に対する意識は高い。ICT活用教育を行う際の基盤システムとなるLMS(学習管理システム:Learning Management System)についても,40.2%が利用していると回答している。また,インターネット等を用いた遠隔教育(授業の一部またはすべてをeラーニングで行うもの)を実施している学部研究科の割合は35.7%で,2005年度の14.6%から5年間で大幅な上昇が見られる。しかし,1科目の授業がすべてeラーニングで行われる「フルオンライン型授業」を実施している学部研究科の割合は16.0%にとどまっている。

 この数字をどう見るかは意見の分かれるところである。インターネットの利用がかなり日常的になっているとはいえ,それは教室での対面授業の周辺において,それを補完し,効率的なものにするための利用が主であって,基本的には従来ながらの対面授業における講義という形態には変化をもたらしていないのかもしれない。また,もともとフルタイムで勉強する18歳から22歳の学生をおもな対象とする日本の大学で,フルオンライン型のeラーニングは必要とされていないともいえる。しかし,インターネットの優れたコミュニケーション機能を対面授業の補完として利用することによって,学生のモチベーションを高め,学習効果を向上させ,学習の継続率・卒業率の向上が図れることも事実である。さらに,単位制度の空洞化を解消し,その実質化を図る手段として有効に機能することも,ICT活用教育には期待されるところである。
著者: 鈴木克夫

参考文献: 青木久美子『eラーニングの理論と実践』放送大学教育振興会,2012.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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