日本大百科全書(ニッポニカ) 「ECEC」の意味・わかりやすい解説
ECEC
いーしーいーしー
Early Childhood Education and Careの略称。世界の幼児教育の指針や制度はさまざまではあるが、幼児教育を表す語として使用されている。日本では「乳幼児期の教育とケア」、あるいは「乳幼児期の教育と保育」「人生初期の教育とケア」と訳したりもする。またECECに近い略称として、EC=Early Childhood、ECD=Early Childhood Development、ECCE=Early Childhood Care and Educationなどがある。
ここで用いられているCare(ケア)は、自立できない乳幼児の保護だけを意味しない。援助する側である保護者と援助される側である乳幼児とのやり取りのすべてにおいて、生きることを伝え合う営みを意味している。Education(エデュケーション)を指導による知識の伝達行為ととらえるならば、Careはやり取りによって生活を理解し合うものとなる。
1980年代後半から、世界は保育の質改革に取り組んできた。経済協力開発機構(OECD)は、2001年に調査報告書Starting Strong : ECEC(邦訳:人生の始まりこそ力強く)を提出している。そこでは、ECEC政策についての八つのポイントを提言している。それ以降、2006年報告書Starting Strong Ⅱ : ECECから2017年報告書Starting Strong 2017 : Key OECD Indicators on Early Childhood Education and Careに至るまで、保育の質に関する検討事項として、政策課題、保育の質向上の実現に向けての過程と手段、評価方法、保育者の就労に関する施策などについて多角的な提言を行っている。
社会学者の泉千勢(いずみちせ)(1946― )は著書の中で、その改革の背景には(1)知識基盤社会に向けた生涯発達的検討において乳幼児期教育が着目されたこと、(2)男女の雇用機会の均等化と保育ニーズの普遍化、(3)学術的知見によって乳幼児期への投資が有効と示されたこと、(4)国連の「子どもの権利条約」に示されたように権利を有する子ども観が定着したこと、の四つがあるとしている。
[宮田まり子・秋田喜代美 2018年4月18日]
『泉千勢編『なぜ世界の幼児教育・保育を学ぶのか――子どもの豊かな育ちを保障するために』(2017・ミネルヴァ書房)』