内科学 第10版 「Lyme病」の解説
Lyme病(スピロヘータ感染症)
疫学
1975年にコネチカット州ライムで集団発生し,これが端緒で命名された疾患であり,米国では年間2万人前後の患者が発生している.世界的には米国,欧州,ロシア,中国,豪州などで報告されている.わが国ではおもに本州中部以北(特に北海道および長野県)で,年間10例前後の患者が発生している.わが国ではおもにシュルツェ・マダニに媒介されることが多く,これらマダニは本州中部以北の山間部に多いが,北海道では平地でも認められる.
臨床症状
臨床症状は3期に分けられるが,症状は地域によって異なる.
感染初期(ステージ1)は菌がマダニ刺咬部皮膚に限局している段階である.70〜80%に罹患後数日(3〜32日)で皮疹が出現する.皮疹は限局性遊走性紅斑(erythema migrans)とよばれ,刺咬部に紅斑が出現した後に紅斑は拡大し中心部が退色する場合がある.
罹患後数日から数週後には播種期(ステージ2)となり,この段階では菌が刺咬部以外に播種する.皮膚には二次性紅斑が複数出現し,初期から3〜4週間持続する.ほかにインフルエンザ様症状(発熱,悪寒,倦怠感,頭痛,筋肉痛,関節痛など)を伴う場合がある.関節症状は多くに認められる.米国では約15%に神経症状(脊髄神経根炎,髄膜炎,顔面神経麻痺)を伴う.無治療患者の5%では心疾患(刺激伝導系障害性不整脈,心筋炎)を伴う場合があり3日〜6週持続する.
罹患後数カ月より慢性期(ステージ3)となり,症状は感染後数カ月から数年継続する可能性がある.約60%では間欠性の慢性関節炎を発症するが,いったん出現した症状は数週〜数カ月持続する.関節液内では菌の遺伝子が認められる.この症状は通常抗菌薬治療に反応するが,一部は抵抗性でありantibiotic-refractory Lyme arthritisとよばれる.ほかに慢性萎縮性肢端皮膚炎や慢性脳脊髄炎などが認められる.
さらにLyme病後症候群(post-LD syndrome)という概念も提示されているが,症状は慢性疲労性症候群や線維性筋痛症と区別できない.
診断
病初期の紅斑部皮膚生検で菌の分離培養が可能であるが,血液や脳脊髄液からは難しい.抗体検査も感度・特異度に問題がある.そのため通常は臨床診断が中心となる.わが国では使用する抗原が罹患地域で異なるため,北米での罹患例では抗体検査は米国の臨床検査ラボにて行われ,欧州からの輸入例および国内例では感染症研究所・細菌部で検査されている.
治療
多くの場合,経口治療薬で症状は改善する.試験管内ではテトラサイクリン系,ペニシリン系,第2・第3世代セフェム系薬剤が有効である.皮疹が中心の感染初期にはドキシサイクリン200 mg/日,アモキシシリン1500 mg/日,セフスロキシム1000 mg/日を14(~21)日間投与する.感染初期に神経症状を伴う場合にはセフトリアキソン2 g/日を14日間投与する.感染初期に心症状を伴う場合にも上記経口または点滴治療が実施される.感染後期の関節症状に対しては上記経口薬を28日間投与する.感染後期の神経症状に対してはセフトリアキソン2 g/日を14~28日間投与する.[立川夏夫]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報