n-ヘキサン中毒

内科学 第10版 「n-ヘキサン中毒」の解説

n-ヘキサン中毒(有機物質中毒)

(1)n-ヘキサン中毒(n-hexane poisoning)
定義・概念
 n-ヘキサンは石油の中に天然に存在する炭化水素で,かって接着剤やシンナーに主成分として含まれていた時期があり,ビニルサンダル製造従事者などの間で中毒例が多発した.現在では接着剤やシンナーはn-ヘキサンからトルエン主体の成分におきかえられ,n-ヘキサン中毒は減ったが,シンナー遊びの常習者で散発的にみられる.
病理
 末梢神経遠位部に強い軸索変性を生じる.大径有髄線維が障害されやすく,軸索の一部に著明な腫大がみられ,中にニューロフィラメントの集積をみる.
病態生理
 n-ヘキサンの代謝産物2,5-ヘキサンジオンが強い神経毒性を有し,ニューロフィラメントや神経細管を構成する蛋白質アミノ基と反応してピロル環を形成し,架橋を生じて軸索輸送が障害される.
臨床症状
 手袋・靴下型の異常感覚と表在・深部感覚鈍麻,進行するに従い筋力低下,筋萎縮がみられ,腱反射は減弱・消失し感覚運動性多発ニューロパチーの病像をとる.皮質脊髄路の障害によりときに近位部の腱反射が亢進することもある.皮膚の冷感,紅潮,視力低下などもみられる.重症例では近位筋の筋力低下も加わり,独歩不能となる.
検査成績
 神経伝導速度は遠位での遅延がみられる.筋電図では神経支配が断たれて2~3週で脱神経所見(positive sharp wave,fibrillation potential)と干渉波の減少,数カ月して神経再支配が進めば高振幅・多相性運動単位の出現をみる.
治療・経過・予後
 対症療法が主体になる.起立・歩行訓練,作業療法などリハビリテーションを行う.軽症の場合は1年以内に完全回復するが,重症例の場合は完全回復は困難で後遺症を残す.[内野 誠]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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