日本大百科全書(ニッポニカ) 「PCA環境紛争規則」の意味・わかりやすい解説
PCA環境紛争規則
ぴーしーえーかんきょうふんそうきそく
PCA Optional Rules for Environmental Disputes
環境に関する紛争を仲裁にゆだねる場合に、当事者が選択することのできる手続規則。正式名称は「自然資源または環境に関する紛争の仲裁のための選択規則Optional Rules for Arbitration of Disputes Relating to Natural Resources and / or the Environment」。PCA環境紛争規則は、ハーグに設置されている常設仲裁裁判所(PCA)によって、2001年6月に採択され、即日発効した。この規則は、国家、政府間組織、非政府組織、多国籍企業および私人などの多様な当事者が共通に使うことのできる統一的な枠組みを提供することを目的としており、基本規則、仲裁審判所の構成、仲裁手続および仲裁裁定の4部からなっている。その性格は選択的であって、柔軟性と当事者自治を原則としている。
環境紛争は時間との戦いでもあるため、この規則は、PCAまたは国際連合国際商取引法委員会United Nations Committee on International Trade Law(UNCITRAL(アンシトラル))の既存の規則よりも短い時間枠を定めている。とくに、仲裁の停滞または遅延を防止するために、当事者が仲裁人もしくはその指名権者について合意できない場合または選ばれた指名権者が機能しない場合は、PCA事務総長は仲裁人を任命することができる。また、科学および法律の分野がかかわるために、当事者または審判所に対してその分野の専門家を迅速に提供できるように、締約国および事務総長によって選任された環境および自然保全に関する法律について学識と経験を有する仲裁人のパネル(候補者リスト)、ならびに、締約国および事務総長によって選任された科学的専門的支援を行うことのできる環境科学者のパネルが設置されている。
この規則の利用にあたっては、国内救済手段が尽くされていることは要件とされておらず、管轄権の決定は審判所に委ねられている。また、審判所は、環境に対する重大な損害を防止するために必要な暫定措置を命じることができる。
[磯崎博司]
『森田恒幸・天野明弘編『環境経済・政策学6 地球環境問題とグローバル・コミュニティ』(2002・岩波書店)』