地球環境問題(読み)ちきゅうかんきょうもんだい

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

地球環境問題
ちきゅうかんきょうもんだい

地球環境問題とは何か


 近年、地球環境問題とよくいわれるが、その具体的内容は、案外あいまいなように思われる。たとえば、環境省は、地球環境問題として、(1)オゾン層の破壊、(2)地球の温暖化、(3)酸性雨、(4)熱帯林の減少、(5)砂漠化、(6)開発途上国の公害問題、(7)野生生物種の減少、(8)海洋汚染、および(9)有害廃棄物の越境移動、の九つの現象を取り上げている。そして、地球環境問題に共通する性格を、第一に、長い時間をかけて進むプロセスで、結果として広い範囲で多様な被害や損害が生じること、第二に、個々の問題が環境や世界経済の網の目を通じて相互に結び付きをもっていて、一つの「問題群」を形づくっていることであると分析している。
 地球環境問題のフィジカルな側面は、確かにこうした性格をもっているが、地球環境問題がこれまでの環境問題と決定的に異なる側面は、国際的次元をもつということにあるだろう。ここで、いわゆる地球環境問題を、環境問題をつうじた国際関係のあり方にしたがって類型化し、整理しておこう。[植田和弘]
地球環境問題の第一のタイプ
国境を越える環境汚染(transboundary pollution)とよばれているもので、ヨーロッパ、北アメリカでの酸性雨問題や国際河川の水質汚染問題などが典型的な事例である。
 この場合、ある国が環境政策を実行すると、それが他国における環境の改善や悪化という便益や費用を生み出すことになる。ところが、他国で生じる便益や費用は、環境政策を実施しようとする国の経済計算には反映されにくいために、行われるはずの政策が実行されないという事態が生じうる。そこで、ある国が環境政策にかかわる費用と便益を国際的見地から勘案することを促す仕組みを考案することが課題となろう。
 環境損害の補償交渉における費用負担原則としては、汚染者負担の原則(polluter pays principle 略称PPP)が適用される。汚染の原因者が環境費用を負担するというPPPは、もともと「稀少(きしょう)な環境資源の合理的利用を促進し、国際貿易および投資におけるゆがみを回避するための汚染防止・制御装置に伴う費用の配分のために用いられる」原則として提唱された。つまり、いわゆる公害ダンピングを防ぎ、競争条件を同一にするという観点から出されてきた原則である。1972年に経済協力開発機構(OECD)が「環境政策の国際経済面に関する指導原理」(72年5月26日)のなかで提唱し、その後「汚染者負担の原則の実施に関する理事会勧告」(74年11月14日)を経て、国際的に環境政策の原理として普及し、各国において環境政策の指導的原則になっている。
 しかし、原因国が途上国で、被害国が先進国となるような場合――日本で生じつつある酸性雨問題はこのケースかもしれない――では、PPPを適用して、先進国が途上国に費用負担を求めることは非常にむずかしい。なぜなら、途上国は「発展の権利」を主張し、かつまた、先に環境汚染を引き起こしていた者としての先進国の責任を問うからである。
 そこで、PPPを費用負担原則の基本としつつも、途上国の発展の権利、つまり、エネルギーを一定量消費して工業化を進めるのは当然の権利であるという前提から出発する必要があるかもしれない。その場合、先進国側は、途上国の発展の権利を認めたならば受けたであろう被害を免れうるという意味での受益があることを根拠に、途上国の公害防止費用の一部あるいは全部を負担するという考え方も一考の余地がある。すなわち、一種の受益者負担の原則を環境費用の負担原則として適用するというものである。[植田和弘]
地球環境問題の第二のタイプ
環境規制の緩い地域への企業進出や、直接投資によって環境破壊が進む、いわゆる公害輸出といわれるケースである。しかも、私企業の直接投資にとどまらず、政府開発援助(official development assistance 略称ODA)などの拡大に伴って環境破壊を招くケースが増加していることが国際的に大きな問題になっている。
 ODAの基本目的であるインフラ整備の援助事業自体が大規模な環境破壊を引き起こしているという批判や、その後に進出してくる私企業の直接投資による公害輸出の呼び水になっているのではないかという批判が出されている。実際に、日本の在外企業協会の調査(1983年)によると、海外進出企業の公害対策費が設備投資に占める割合は一般に国内の場合よりも低く、かつ在外企業中で大気汚染防止施設をもつ企業は全体の5分の1にも達していない。
 ODAや直接投資は、途上国で行われる開発プロジェクトの評価問題にもかかわるだけに、環境配慮を開発プロジェクトのなかにいかに具体的に制度化し保証していくのかが課題となっている。
 具体的な問題解決のための動きの一つとして、OECD等の国際機関では、ガイドラインづくりが始められている。先進国が途上国に直接投資やODAを行う場合には、その投資や援助について自国の環境基準や環境アセスメントを適用するべきだ――たとえば、日本からの投資や援助については、日本の環境基準や日本の環境アセスメントを適用する――という提言がなされている。
 もう一つは、地域共通環境政策という考え方である。環境規制水準の格差(いわゆるダブルスタンダード)という公害輸出の誘因自体をなくすための政策である。これは、市場統合に伴って、各国の環境政策の違いが、経済活動を阻害する非関税障壁にならないように調整する、環境政策のハーモナイゼーションが求められているヨーロッパ連合(EU)で、もっとも進んでいる。また、課題をしぼれば、野生生物種の保護に関してはアフリカ諸国で地域共通の政策がとられている。これに対して、まったく、地域共通環境政策をもたないのはアジアである。経済成長率が高く、世界の生産基地化してくるなかで、潜在的有害物質や廃棄物の国際的な移動がますます活発化するアジアこそ、地域共通環境政策が必要であり、日本はこのような面でこそイニシアティブを発揮していくべきであろう。
 さらに、多国籍企業のなかには、進出先で汚染物質を垂れ流しながら、採算の論理から汚染浄化や損害賠償をしないまま撤退するケースも出てきている。途上国には汚染だけが残り、だれをどのような方法で何を根拠に訴えて補償させるのか、一国の環境政策だけでは解決のつかない問題が現実に起こり出しているのである。
 これは、環境倫理といった次元だけではなく、途上国の経済開発に関与する経済主体が多国籍化するなかで、それに伴う環境破壊を、どの環境水準で、だれの費用負担によって防止すべきかについての、国際的ルールづくりという課題を提起している。[植田和弘]
地球環境問題の第三のタイプ
先進国と途上国との間での経済関係や貿易構造から生み出される環境破壊である。
 木材の伐採による熱帯林の破壊が典型的な事例の一つである。アジアの熱帯林の場合、切り出された木材の6割以上が日本向けとなっている。熱帯林保護に関して日本の責任が問われるのは、単に日本の経済力が大きいというだけではなく、日本経済や日本企業さらには日本人の生活様式と森林伐採に直接的なかかわりがあるからである。
 このほかにも、アジア地域の第一次産業と日本経済とのかかわりは非常に深い。たとえば、エビは、東京市場が国際的に圧倒的なシェアを占め、世界で輸出されているエビの4割以上が一極集中している。アジアの各地で、日本人に食べてもらうためのエビの養殖場にするために、マングローブ林が破壊されている。また、より効率的な養殖のための水温管理を地下水のくみあげで行うため、地盤沈下につながっている。こうした環境破壊を技術的に防ぐことは可能ではあるが、公害防止費用をエビの価格に転嫁することは、日本企業が圧倒的なシェアを握り、買い手市場が成立している場合には、実際には困難であり、そのため技術的に可能ではあっても公害防止投資はなされにくくなる。
 また、留意すべきは、本来自然からの恵みを基礎にした自然となじみやすい第一次産業が、現在の世界経済システムのなかに組み込まれ、輸出主導型産業になっていくと、往々にして、資源浪費環境破壊型産業になっていくという点である。
 開発途上国での環境破壊的で資源浪費的な経済成長パターンは、多くの場合輸出依存的であるが、同時に先進国での環境破壊的で資源浪費的な経済構造や生活様式と結び付いているか、あるいは相互補完的に成立しているのではないか。日本経済と途上国での森林伐採とのかかわりについてみれば、木材を大量に輸入している日本は、約30年前までは木材需要の大部分を自給していたのであるが、その林業は現在存亡の危機に直面している。途上国での環境破壊は、日本国内での産業政策や、国土政策のあり方と強く関係しているのである。
 WTO(世界貿易機関)も自由貿易と環境保護の関係についての検討を始めている。今後、途上国での資源や環境を保全しつつ経済発展を可能にする世界経済システムを構想するためには、国際的な貿易のルールのなかに環境配慮の考え方をいかに内実化していくことができるかが問われてくるであろう。[植田和弘]
地球環境問題の第四のタイプ
絶貧国といわれる国を含む一部の開発途上国にみられる、環境破壊が貧困を促すと同時に、貧困がまた環境破壊を生み出すという、貧困と環境破壊が悪循環的に進行するタイプである。
 とくに、累積債務問題に悩む地域では熱帯雨林の破壊、土地の荒廃、砂漠化といった生態系の崩壊が進み、結局、人間生存の危機につながり、アフリカや中南米の一部の国や地域でみられるような飢餓状態が生み出されている。また、アマゾン地域では、モノカルチャー経済と大土地所有制のもとで、貧困層が森林伐採と農地開拓に駆り出され、森林破壊の原因が再生産されている。
 個別的な政策としては、森林の保全と累積債務を棒引きする、いわゆる環境スワップという方法が提起され、一部のNGO(非政府組織)などで実行するところも出てきている。しかし、累積債務危機を中心とした南北問題や世界経済システムの構造が根本的に変わることなくしては、この問題の解決はむずかしく、その対策は困難を極めると思われる。[植田和弘]
地球環境問題の第五のタイプ
汚染されているものがグローバル・コモンズ(大気、成層圏や海など世界中の人々にとって共同利用されている資源)であるがゆえに、結果的に汚染の原因者が自分自身にも他者にも損害を及ぼすタイプの環境破壊である。
 この場合、環境破壊に伴う加害と被害の関係が直接的ではなく、かつまた、さしあたりは地域的な被害も及ぼさないが、グローバル・コモンズに損傷や影響を与えることで、程度の差はあれ、加害者を含む地球上の全員が被害者になるといった性質をもつ環境破壊である。CFC(chlorofluorocarbon の略、通称フロン)やハロンなどによるオゾン層の破壊や地球温暖化問題は、その典型的な事例である。[植田和弘]
地球環境問題と世界経済システム
今日の地球環境問題は以上の五つのタイプに類型化でき、かつその複合的現象として生じているが、その根底には世界経済のグローバリゼーションがある。また、第一のタイプおよび第二のタイプの環境破壊は、従来1国内で生じていた現象が、生産力の発展に伴って空間的スケールを拡大して起こっているとみることができるのに対して、第三のタイプおよび第四のタイプの環境破壊は、世界経済の相互依存関係が深まるのに伴って、世界経済のメカニズムのなかにビルトインされつつあるという点で新しい質の地球環境問題だということができよう。さらに、第五のタイプの環境破壊は、人間活動の水準が現状におけるグローバル・コモンズの再生能力を超える段階に到達したという点で新しい問題であり、地球が宇宙船地球号的性格を顕著に示し始めたという意味で究極的な環境問題であるといえよう。
 さらに、地球環境問題の各タイプごとで、環境政策上の課題や採用されるべき政策手段も異なると思われる。第一のタイプおよび第二のタイプの環境破壊では、1970年代の公害問題に対処するなかで確立されてきた環境政策の原則や手段を、国際的次元で適用していくうえで生じる諸問題を解決することに主要な政策課題があるのに対して、第三タイプ、第四タイプおよび第五タイプの環境破壊では、世界経済システムを環境保全型にするためにシステムの構造的な改革を進めうる全地球的視野での環境政策の原理や手段の構築という点に課題の中心がある。また、これまで意識されてこなかった国際公共財としての地球環境を保全するための費用負担システムも確立される必要があろう。
 つまり、持続可能な発展(sustainable development 国連の「環境と開発に関する世界委員会」が提唱した、将来の世代が自らの欲求を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の欲求を満たすような経済発展)の理念は、個別の開発プロジェクトに関する判定基準として具体化、制度化が図られなければならないだけでなく、同時に経済のグローバリゼーションのもとで途上国が自立的な経済基盤を基礎に発展していく権利を保障しつつ、地球環境を保全していく国際的次元での社会システムを確立していくうえでの理念としても具体化されなければならないのである。[植田和弘]

地球温暖化問題と国際政治の構造


 個々の地球環境問題はそれぞれ固有の問題を形成しているが、地球温暖化問題が今後の一つの焦点だと思われる。以下少し詳しくみておこう。
 地球温暖化が国際的な問題としてクローズアップされだしたのは、自然科学的な知見の整理・確認としては、1985年のフィラハ(オーストリア)会議が最初であり、国際政治の舞台へ出る契機となったのは、88年6月にカナダ政府が主催した「大気変動に関する国際会議」である。この会議は、トロント・サミットの開催直後、アメリカ航空宇宙局(NASA(ナサ))が温暖化を裏づけるデータを提出した時期に開催され、48か国の政府関係者と300人以上の科学者が参加し、初めて二酸化炭素(CO2)の排出量に関しての全地球的な目標を呈示した。
 これ以降、地球温暖化問題は国際政治上の課題となり続けるのであるが、より具体的に進みだすのは、88年11月に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第1回会合が開かれてからである。このときから、地球温暖化問題をめぐる国際政治が現実のものになっていくのである。[植田和弘]
先進諸国の政策スタンス
地球温暖化問題をめぐる国際関係の構図は単純ではない。先進国も一律には論じられず、三つのグループに分けられる。まず、北欧、オランダ、カナダに代表される温暖化問題に積極的に対処すべきだという推進派がある。
 当初はあまり熱心ではなかったが、途中で推進派へ転換したフランス、および旧西ドイツのようなところもある。フランスは、従来はECの共通環境政策には不熱心であった。それが推進派へ転じた理由は、EC統合をにらんで政治的なイニシアティブをとりたいという思惑があったとされている。もう一つは、フランスのエネルギー源に占める原子力発電の比率が非常に高いことと関連している。すなわち、エネルギー問題と温暖化問題を絡めることが、自国のエネルギー政策にプラスになるという判断があるといわれている。
 旧西ドイツは、もともとは酸性雨の加害者でもあり、環境保全に対しては非常に消極的だった。ところが、1989年11月のノールトベイク会議以降、その方針がまったく変わってしまう。そこには、国内政治におけるかなり強力な環境保護派の取り込みという事情、およびフランスと同様EC内での主導権をめぐる思惑という二つの理由があったといわれている。
 温暖化対策に慎重な、あるいは消極的な派の代表はアメリカである。ブッシュ(第41代)政権は「コンプリヘンシブ・アプローチ」を唱え、排出規制や目標値設定をするならば、CO2だけでなく温室効果ガス全般を対象とするべきだとして、CO2の目標値設定に反対した。その背景には、アメリカ自身のエネルギー浪費型の構造の改革にただちに取り組むとなると、経済再生の足かせとなるのではないかという懸念があったように思われる。ちなみに、CO2の総排出量のシェア、1人当り排出量ともアメリカが世界第1位であり、それぞれ、24.2%、5.79トン(炭素換算。いずれも1988年)になっている。
 日本は、どちらかといえば慎重派に分類されるであろう。内部ではいわゆる環境省対経済産業省といった対立を抱えつつ、世界の動きには遅れまいといった態度で進んできている。[植田和弘]
途上国と温暖化問題
地球温暖化問題は、先進国内部でも一定の意見対立はあるのだが、これとは別に、南北対立の構造も明らかに存在している。それがもっとも典型的に現れたのは、1991年6月に40か国余の途上国が集まり開催された「環境と開発に関する開発途上国会議」で採択された「北京宣言」である。「宣言」に盛り込まれた途上国側の基本スタンスは、地球温暖化の責任は先進国にあり、CO2の排出抑制は先進国の責任と負担で行うべきで、その意味で援助とは実は補償なのだというものである。
 しかし、温暖化問題にかかわっては途上国内部にもそのスタンスに大きな違いがある。たとえば、島嶼(とうしょ)国・低地国は温暖化によって生じる海面上昇の影響を直接受けるため、温暖化対策をどちらかといえば望むのに対して、熱帯雨林保有国は温室効果ガスの吸収源として森林保護が強調されると、開発が抑制されるので困るという構図になっている。また、産油国は、温暖化対策は石油輸出の不振・損失につながるとして特別配慮を求めている。
 地球温暖化問題をめぐっては、少なくとも以上のような利害関係を指摘できるだろう。結局、このような諸国家間の利害が錯綜(さくそう)した現実のなかで、国益の調整という従来の枠組みを超えて地球環境保全の原理を構築できるのかという問題が提起されていると考えるべきであろう。[植田和弘]

地球サミットの成果と限界


気候変動枠組み条約をめぐる対立
1992年6月に、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)は、これらの利害関係がぶつかり合う場となり、交渉過程ではさまざまな対立点が現れた。たとえば、地球温暖化を防止するための「気候変動枠組み条約」の内容を見ると、責任論、目標設定にかかわる問題、資金援助・費用負担問題、解決のための手段の問題で利害の対立が現れていることがわかる。
 論点の第一は、発展の権利と責任論、なかんずくPPPとの関係をどのように理解するのかという点である。交渉過程では、先進国側はCO2の排出量に応じて各国が共通の責任を負うべきだと主張した。それに対して、途上国側は先進国責任論を主張し、先進国が行う資金援助は当然の補償であるという考え方であった。途上国各国には発展の権利があるのだから、そのためエネルギー消費量が増加するのは当然であり、さらに気候変動の原因はこれまでの先進国の経済活動にあるのだから温暖化対策の責任は先進国にあり、途上国としては先進国が行う援助の範囲内で対策をとるというものである。
 結局条約は、国際交渉の常として、双方の意見を少しずつ取り入れ、「共通だが、差異ある責任に基づく気候の保護」「先進国の先導的防止対策の原則」という妥協の産物となった。しかし、「発展」の権利は認め、その内容は、「持続可能な発展」であるとしている。
 第二点は、温室効果ガス排出量の抑制のあり方、および抑制の目標設定にかかわる問題である。当時のECや日本など先進国の大部分は排出抑制の目標値を設定することに賛成し、先進国共通の目標として「1990年レベルに排出量を抑制し、2000年以降安定化させる」とした。ただし、「コンプリヘンシブ・アプローチ」を唱えるアメリカは、目標値に科学的根拠のないこと、対策費が多くなることを理由に目標設定に難色を示した。
 これに対して、途上国側は、同じようにPPPを主張しているが、汚染者(ポリューター)は先進国だとする。対策は先進国負担が原則となっており、先進国の援助があれば、その範囲内で排出量の抑制対策をとるという主張である。
 条約では、先進国に対して温室効果ガス排出量抑制政策と、吸収源対策の国家戦略の策定を命じ、抑制の目標設定は1990年レベルにすることになった。
 第三に、技術移転と資金援助の問題である。先進国側は、この技術移転問題で環境保全技術をできるだけ有利な条件で移転するようにするとしたのに対して、途上国側は、特恵的、ノンコマーシャルベースの移転でなければならないと主張した。資金援助に関しては、先進国側は、世界銀行、国連環境計画、国連開発計画が管理をしている「地球環境基金」(Global Environment Facility 略称GEF)に基金を積み、その基金で資金援助をすると提案した。しかし途上国側は、GEFは先進国の代理組織であるとして、新組織の創設を要求して議論は紛糾したのである。
 この論争の背景には、そもそも国際公共財論と資源主権論という二つの考え方の対立がある。途上国側は、技術移転や資金援助を国際公共財とする考え方を基本的には受け入れておらず、資源を利用して発展する固有の権利を第一義的にもっていると主張する。これに対して、先進国側は途上国にも一定の責任があると主張するので、両者間に妥協点をみいだすのは困難なのである。
 条約では、暫定的という限定つきで妥協を図り、一応GEFを技術と資金の援助機関と位置づけ、第1回締約国会議で継続するかどうかを明確にするとしている。
 全体としてみれば、条約は、各国共通の誓約と先進国にだけ追加される誓約との二元構成になっているといえるだろう。しかも、ロシア・東欧などでは、追加される誓約中、資金提供と技術援助は免除されるという妥協が図られている。いずれにせよ、このような二元構成とすることによって、温室効果ガスの抑制について各国が目標や対策を決定し、その内容を公にしていくことを可能にしたのである。
 このような妥協は、「気候変動枠組み条約」以外のほぼすべての条約や宣言の内容についても図られたのである。そのため、地球サミットの評価は大きく分かれ、開催された意義は認めるものの、その成果には大きな限界があるともいわれている。その限界の最大の特徴は、結果的に国益に基づく妥協が図られてしまったことであろう。[植田和弘]
今後の国際機関とNGOの役割
最後に、地球環境保全を推進する主体にかかわる問題に触れておきたい。
 今後は国際機関の役割と各国間の利害関係がさまざまな形で現れてくることに注目しなければならないだろう。たとえば、国際熱帯木材機関(ITTO)のような各国の拠出による国際機関の組織や財政がどういう意思決定を経てどのようなルールで運営されていくかが、各国間で非常に大きな問題になってくると思われる。
 もう一つ、地球サミットで特徴的だったのは、国家間の利害対立とは別に世界中のNGOが集まってさまざまなフォーラムを開催し、数多くのNGO条約を締結したことである。もちろん、NGO条約に対して国家の承認はなされないから、正式な効力をもつ条約にはならない。しかし、その数は非常に多く、NGOが国民国家の枠組みを越えて地球環境保全のための国際的仕組みづくりを具体的に構想した意義は大きい。環境NGOの国際的なネットワークづくりが進められており、今後の地球的規模の環境政策を具体化していくうえで、欠かすことのできない重要な役割を果たしていくであろう。[植田和弘]
『環境庁地球環境部編『改訂 地球環境キーワード事典』(1993・中央法規出版) ▽植田和弘他著『環境経済学』(1991・有斐閣) ▽寺西俊一著『地球環境問題の政治経済学』(1992・東洋経済新報社) ▽環境と開発に関する世界委員会編、大来佐武郎監修『地球の未来を守るために』(1987・福武書店)』

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