国立情報学研究所(NII)が、日本の大学・研究機関の学術研究・教育促進のために構築、運営している日本最大の情報通信ネットワーク。SINETはScience Information Networkの略称である。学術情報ネットワークともいう。1987年(昭和62)に、大学間を接続するインターネットのバックボーンとしてスタート。2022年(令和4)4月から超高速ネットワーク時代に対応したSINET6(シックス)が本格運用を開始した。2022年4月時点で、990の大学・研究機関等が参加し、300万人以上の研究者、学生が利用している。大学のカバー率は国立100%、公立約92%、私立約69%である。
国内では、全都道府県にネットワーク接続拠点(ノード)を設置し、ほぼ全国の各ノードを400Gbps(沖縄は100Gbps)の世界最高水準の光ファイバー高速回線で結ぶネットワークを構築している。これによって、大学・研究機関が集中する関東、関西地区の通信需要増による回線逼迫(ひっぱく)を解消した。
海外とは、アメリカに続き、2019年(平成31)3月からアジア、ヨーロッパとも100Gbpsの高速回線で結び、東京―ロサンゼルス―ニューヨーク―ヨーロッパ(オランダのアムステルダム)をリング状に結ぶネットワークが実現した。同時に日本―アジア(シンガポール)回線も同じ100Gbpsに増強した。さらに、2024年度までに札幌とアムステルダムを結ぶ回線を構築し、ネットワークの複線化を目ざしている。単独機関が世界を一周する国際回線網をもつのは世界で初めてである。
インターネットの同じIP(Internet Protcol、インターネットプロトコル)で運用され、利用者の利便性を図るため、国内の商用相互接続サービス(JPIX、JPNAP、BBIX)を通じて多くのインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と相互接続している。情報通信研究機構(NICT)など他の研究機関が構築しているJGN、WIDE(ワイド)、APAN(エーパン)などの研究ネットワークや各地域にあるローカルネットワークとも相互接続し、学術交流を進めている。他の研究機関や、離れたキャンパスの間でVPN(Virtual Private Network。仮想専用網)を構築することもできる。SINET6では、次世代モバイル通信規格「5G」にも対応し、大量のデータをやりとりすることが可能になり、さらにローカル5Gによる高速モバイル通信も始まりつつある。
国際的な研究交流を推進するため、海外の学術情報ネットワーク、アメリカの「Internet2」、ヨーロッパの「GÉANT(ジェアン)」のほか、イギリスの「Janet」、オーストラリアの「AARNet」などとも回線が結ばれている。アジア地域との交流を進めるため研究・教育ネットワーク「Asi@Connect」とも連携し、国際学術情報ネットワークの強化にも取り組んでいる。
SINETによって、理化学研究所のスーパーコンピュータ(スパコン)「富岳(ふがく)」をはじめ、国立大学等に設置されている全国のスパコンが結ばれ、一つのアカウントで運用できる。また、複数の大学を結んだ「仮想大学LANサービス」も可能となり、大学間の連携が進む基盤が整備された。
SINET6の運用開始にあたり、データセンター(DC)を22か所増やし全国70か所にした。これによってアクセスが容易となり、大規模なデータの蓄積と処理、スパコンの共同利用、論文など電子化された情報の共有(機関リポジトリ)、セキュリティに関するサービスの提供が可能になった。
これまでSINETを活用した研究では、各大学や機関が、国内の大型施設SPring-8(スプリングエイト)(大型放射光施設、兵庫県佐用(さよう)町)、J-PARC(ジェーパーク)(大強度陽子加速器施設、茨城県東海村)、海外の研究拠点CERN(セルン)(ヨーロッパ原子核研究機構、スイスのジュネーブ)にあるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)、ALMA(アルマ望遠鏡、チリ)などと結んで、大量のデータのやりとりが行われている。海外とも高速回線100Gbpsの高速網で結ばれていることで、日米欧間のデータのやりとりが活発化した。高エネルギー加速器研究機構(KEK(ケック)、茨城県つくば市)は、CERNとの間でVPNを構築、膨大な実験データのやりとりをし、ノーベル物理学賞受賞につながる研究成果に貢献している。
また、高速回線が全国に普及したことで、地震予知にも恩恵をもたらした。全国各地の地震観測データを、マルチキャスト機能などを利用し各研究拠点に配信している。たとえば、東北大学と大阪大学、NECが開発した津波浸水被害予測システムでは、SINETによってデータが瞬時に送られ、地震発生30分以内に浸水域がどこまで及ぶのかを推計するのにも役だてられている。両大学のスパコンに大量のデータが集められることにより、瞬時に計算できるのが特長で、どちらかの大学が被災しても作業が滞ることがないのも強みである。
ほかにも、天文、宇宙、核融合、高エネルギー物理学、生命科学、地震などの先端科学分野での利用が多い。疾病に関する医療情報や画像など、究極の個人情報を扱う、秘匿性の高いデータのやりとりも今後、利用拡大が期待されている。災害時に医療情報データが活用できるよう東西2か所にデータセンターを置き、バックアップ体制を構築している。
教育分野でも盛んに利用され、大学間の単位互換制度の実現に道を開いている。アメリカの主要大学が始めたオンラインによる教育「MOOCs(ムークス)」など、国内外の公開講座の配信が日本の大学でも本格化した。
文部科学省は、2025年までに小中高等学校の児童・生徒に教育用パソコンや、タブレット1人1台を配備し、それを使ってビッグデータを使った教育ができる環境を整備して、IT人材を育てる方針を発表している。これを実現するため2022年度から小中学校、高等学校でもSINETが利用できるようになった。
[玉村 治 2023年7月19日]
SINETは、当初、大学内で閉じたLANを相互に接続する専用高速幹線(インターネットバックボーン)として構築されたが、IPは用いられておらず、利便性は悪かった。1998年(平成10)からインターネット相互接続を開始。2002年(平成14)には、SINETとは別に「スーパーSINET」(SINET2)の運用が始まった。光通信技術を用い、10Gbpsで研究機関の間を結ぶ、当時としては世界有数の高速インターネット網として構築された。
2007年には、SINETと、スーパーSINETを統合してSINET3(スリー)の運用が始まった。最大40Gbpsの通信速度を実現しただけでなく、無線LAN、携帯電話、光回線などとの接続が可能となり利便性は格段に高まった。目的などに応じて三つのネットワーク階層(レイヤLayer)から選択して利用できる。レイヤ1は専用線接続、レイヤ2は広域LAN間接続、レイヤ3はIPネットワークである。
2011年に運用が始まったSINET4(フォー)は、クラウド時代に対応し、ネットワーク全体の高速化を図った。アメリカの研究教育用ネットワーク「Internet2」、ヨーロッパの「GÉANT」など海外の大規模ネットワークと相互接続し、国際間の共同プロジェクトの基盤となってきた。2016年に運用開始したSINET5は、全国を100Gbpsで結ぶ高速通信網を構築した。
[玉村 治 2023年7月19日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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