シンクロトロン放射を光源とした紫外線、X線を利用する研究施設。相対論的な光速に近い高エネルギーの荷電粒子が円軌道を描いて飛翔するとき、曲率中心に向かう加速度によって軌道の法線方向にシンクロトロン放射とよばれる光(放射光)が放射される。シンクロトロン放射の放射量は、粒子のエネルギーと静止質量の比の二乗に比例する。円軌道を描く荷電粒子は、このシンクロトロン放射によってエネルギーを失うので、高エネルギー円形加速器、とくに電子シンクロトロンを建設する立場からみると、あまりありがたくない存在である。しかしシンクロトロン放射は、真空紫外からX線領域にわたる広い波長領域の方向のそろった強力良質な光源となるので、自然科学の広範な研究分野で、また工業的応用分野で貴重な光源として注目されている。
原子核・素粒子の研究を主目的とする電子加速器に付属して、シンクロトロン放射を光源として利用するために加速電子ビームを貯蔵するリングが世界各地で建設され、物質科学、生命科学など自然科学領域の研究あるいは電子工業など工業的利用のために活用されている。さらに最近では広範な分野からの要望によってシンクロトロン放射利用のための専用加速器および貯蔵リング施設が建設されている。このような施設を放射光施設あるいはフォトン・ファクトリーPhoton Factoryとよび、日本でも高エネルギー加速器研究機構(旧、高エネルギー物理学研究所)のシンクロトロンに付属する放射光施設などが利用されていた。さらに、純粋な基礎研究から先端技術の開発研究まで多岐にわたる利用を目的とした専用の大型放射光施設が新たに播磨(はりま)科学公園都市内に建設(1997年完成)された。この大型放射光施設は8ギガ電子ボルト(GeV)の電子シンクロトロンと全長1.4キロメートルの電子・陽電子蓄積リングを中心とするものでSPring-8(スプリングエイト)(Super Photon ring 8 GeV)とよばれている。
[西村奎吾]
放射光を発生させる専用の電子(あるいは陽電子)シンクロトロン(蓄積リング)を光源としてもつ研究施設.日本で2005年に稼働中の放射光光源は14で,世界有数の放射光研究の隆盛をみている.高エネルギー物理学のための電子シンクロトロンに寄生して利用していた施設を第一世代とよぶ(1960~1970年代).放射光専用の電子シンクロトロン(おもに偏向磁石からの放射光利用)をもつ第二世代(1980年代)を経て,1990年代以降は,高輝度・低エミッタンス(高度の絞り)でアンジュレーターなどの挿入光源に主眼をおいた大型施設“第三世代光源加速器”が建設されている.2008年では,第三世代光源にはSPring-8(Super Photon ring 8 GeV,播磨科学公園都市),APS(Advanced Photon Source,シカゴ近郊),およびESRF(European Synchrotron Radiation Facility,グルノーブル)の3施設がある.SPring-8はエネルギー8 GeV,周長1436 m の世界最大の放射光施設である.これらの放射光施設はホームページを開設しており,たとえばwww.spring8.or.jpなどのURLから性能,特徴を知ることができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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