日本大百科全書(ニッポニカ) 「SPring-8」の意味・わかりやすい解説
SPring-8
すぷりんぐえいと
兵庫県の播磨(はりま)科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設。Super Photon ring-8 GeVの略称で、最大加速エネルギーが80億電子ボルト(8GeV)に達することに由来する。放射光とは、電子を光速にほぼ等しい速度まで加速した後、磁石によって進行方向を曲げたときに発生する細く強力な電磁波(シンクロトロン放射光)のことである。放射光の波長は電子の加速電圧に応じて、赤外線、可視光からX線まで及ぶ。SPring-8では、この高指向性で透過力の強いX線である放射光を用いてナノテクノロジーにおける微細構造構築、バイオテクノロジーでの創薬物質の結晶構造解析など、学術研究から産業利用まで幅広い研究が行われている。また和歌山毒入りカレー事件でのヒ素の不純物解析でも知られるようになった。
1991年(平成3)に日本原子力研究所と理化学研究所(理研)が建設に着手し、1997年からSPring-8を供用している。2005年(平成17)より施設者が理研になり、高輝度光科学研究センターが運転・維持管理を担っている。2012年よりX線自由電子レーザー施設SACLA(さくら)(SPring-8 Angstrom Compact free electron Laser)の供用も始まった。SACLAでは、これまでの放射光と比べて、輝度は10億倍、パルス幅は1000分の1(10フェムト秒=100兆分の1秒)、さらに100パーセント位相のそろったコヒーレントなX線という性能を生かした、癌(がん)やエイズなどの難病に対する特効薬の開発、持続的発展に必要な新エネルギーシステムの研究など、幅広い分野での活用が見込まれている。
[山本将史 2022年3月23日]