化学辞典 第2版 「X線吸収微細構造」の解説
X線吸収微細構造
エックスセンキュウシュウビサイコウゾウ
X-ray absorption fine structure
X線吸収端近傍微細構造(X-ray Absorption Near Edge Structure,XANESあるいはNear Edge X-ray Absorption Fine Structure,NEXAFS)と広域X線吸収微細構造(Extended X-ray Absorption Fine Structure,EXAFS)とを合わせてX線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure,XAFS)と総称する.物質のX線吸収スペクトルを測定すると,内殻電子の励起に対応するエネルギーで,急峻な立ち上がりを示す吸収端構造が観測される.気体のように原子が互いに孤立している場合には,吸収強度は吸収端の高エネルギー側で単調に減少する.しかし,分子や液体,固体,表面吸着系では,吸収スペクトル強度は吸収端近傍ではげしく増減し,高エネルギー側では単調な減少に,弱い増減が重畳した波形を示す.吸収端近傍(吸収端の少し低エネルギー側から,吸収端の高エネルギー側30 eV 程度以内の領域)のはげしい増減をX線吸収端近傍微細構造とよび,吸収端の高エネルギー側30 eV 程度から500 eV 程度にかけてみられる緩い増減を広域X線吸収微細構造とよぶ.X線吸収端近傍微細構造は,内殻電子の分子,固体の空軌道への遷移と散乱状態への遷移とがまじり合った複雑な起源をもつ.軽元素あるいは有機物のXANESは,歴史的な経緯からNEXAFSともよばれるが,本質は同じである.X線吸収端微細構造は,着目する原子の化学的結合状態を反映した遷移エネルギーのシフト(化学シフト)を示すので,その原子の酸化数,電子配置,結合様式,分子の吸着状態などの豊富な情報が得られる.広域X線吸収微細構造は,原子の内殻軌道から飛び出した光電子のド・ブロイ波が,周囲のほかの原子と衝突してできる散乱波と,もとのド・ブロイ波との干渉によって生じる.EXAFSには,着目する原子のごく近傍の原子配置が色濃く反映されるため,EXAFSの解析によって,着目する原子周囲の局所構造を調べることができる.X線回折と違って,結晶構造でない物質でも構造解析が可能となるため,放射光の発展とともにその応用が爆発的な勢いで拡大した.非晶質,表面,液体,固溶体,合金,触媒など,応用範囲はきわめて広い.XAFSの測定には波長が連続で,かつ強度の大きいX線が必要で,熱陰種型のX線発生装置の強度は弱いのでほとんどの測定は,放射光で行われている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報