翻訳|dub
1960年代に発生し、1970年代に世界的に流行したジャマイカのポップ・ミュージック、レゲエで用いられるサウンド・イコライジング(特定の周波数を強調または低減させること)の手法、あるいはそのような手法を用いたサウンドをさす。演奏を録音したマスター・テープの各トラックに、極端なエコーやディレイ(やまびこのように元音に対して繰り返し再生音を出力する効果)をかけ、浮遊感のある特徴的なサウンド効果を伴う音像を構成する。とくにベースやバス・ドラムといった低音部が強調された特異な音空間をもつことが多い。レゲエ誕生前夜のロック・ステディ(レゲエの先駆者アルトン・エリスAlton Ellis(1938―2008)の曲「ゲット・テディー・トゥー・ロック・ステディ」にちなんでよばれる。ジャマイカのポップ・シーンにおいて初期のスカにかわって登場した)のシングル盤のB面に、音量レベルの調整用として収められたことが起源で、その後キング・タビーKing Tubby(1941―1989)やリー・ペリーLee Perry(1936―2021)といったダブ・ミキサーたちが、ドラムのスネアやハイハットといった高音部とベースなど低音部とのコントラストを独特の形で強調した実験的なミックスを行い、それはダブ・プレートとよばれるアセテート製の試験プレス版のレコードとなって、サウンド・システム(レコードを野外で大音量で流すために組まれたスピーカーとアンプ、ターンテーブルなどのステレオ装置一式)によって聴衆に披露された。
1970年代後半になると、英米ロックの主流にもダブの影響は広がり、とくにパンク・ロック以降に多様化したイギリスのニュー・ウェーブ・シーンにダブの影響を強く受けたグループが多数登場した。とりわけ、イングランド南西部の都市ブリストルからは、ポップ・グループ、マッシブ・アタックといったグループが出現し、ダブをポップ・ミュージックの基本的なサウンド制作手法として広めることとなった。
[増田 聡]
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