1970年代後期のパンクの衝撃がおさまった後、イギリスのポップ・シーンには多様な音楽性を持ったグループが多数出現した。80年代前半までのこのイギリスやアメリカの新しいポップの流れを総称してニュー・ウェーブと呼ぶ。ダンス・ミュージックの影響を受けたもの、レゲエの影響を受けたもの、パンク以降のロックの脱構築を進めたもの、サイケデリック・ロックと世紀末ファッションを取り入れたゴシック、ディスコ・ポップと耽美趣味を結合したニュー・ロマンティクスなど、その音楽的傾向は多様を極めるが、70年代ロック・ポップに対して観念性・民族性・テクノロジー性の側面を拡張させたさまざまなポップ・ムーブメントを総称した名称であったと見なすことができよう。
観念性の側面に関しては、パンクの行った「ロックへの死亡宣告」をより広く解釈し、さまざまな非ロック的音楽をその中に取り込みつつ、難解な音楽性が探究された。PIL(パブリック・イメージ・リミテッド)やディス・ヒートなどがその代表的存在である。パンクの政治性を追求したギャング・オブ・フォーも重要なグループである。またロックの男性中心主義的なジェンダー規範に対する批判的意識が広く共有され、スリッツのような女性ロック・バンドが多数出現する一方、キャンプ感覚(様式としての美を享楽的に捉え、人工的なものや一時的なものを偏愛する感覚)を消費主義的に様式化したジャパンなどのニュー・ロマンティクスの動きが活性化した。
民族性については、レゲエを筆頭に第三世界へと音楽的素材を求める動きが活発になり、後のワールド・ミュージックを準備することとなった。トーキング・ヘッズは『リメイン・イン・ライト』(1980)でアフリカ音楽の土俗性をディスコ・ポップに接合し、セックス・ピストルズのプロデューサーとして名をあげたマルコム・マクラーレンによって世に送り出されたバウ・ワウ・ワウは、エスノ・ポップというジャンル名称を一般化させた。
テクノロジー的な側面に関しては、当時急速に廉価化が進んだシンセサイザーが積極的に導入され、スロッビング・グリッスルやキャバレー・ボルテールの創始したインダストリアル・ミュージックは、電子楽器や雑音を積極的に導入し、ロックの音楽素材をより多様にした。またクラフトワークの創始によるテクノも広く受け入れられ、後のハウス・ミュージックの流行を準備することとなった。
[増田 聡]
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…しかもSFのそうした面は今日まで受け継がれており,幾つかの大国が手を結べば(小さな民族の意志など無関係に)世界平和が実現するとか,ロボットに知性を与えながら人間に奉仕するものという前提を設けるなど,いわば思考実験としてはいとも御都合主義的なものでしかなかった。折しも60年代に入って環境汚染やベトナムでのアメリカの敗戦,月への人間の到着など幾つかの大きな事件が世界観の変更を求め,テクノロジー社会の行きづまりを人々が感じ始めたとき,〈新しい波(ニュー・ウェーブ)〉と呼ばれる改革運動が生まれた。イギリスではムアコックM.Moorcockが編集する《ニュー・ワールズ》が唯一のSF雑誌だったが,バラード,オールディスなど新しい作家たちの出現とともに,積極的にアメリカSFの批判を始め,これをアメリカではメリルJ.Merrilが支持し,ディレーニS.R.Delany,エリソンH.Ellison,ル・グイン,ウィルヘルムK.Wilhelm,ディッシュT.M.Dischといった新しい作家群が同様の主張のもとに登場したため,大きな論争をまき起こした。…
… こうしたさまざまな試みが1970年代前半まで展開されたが,試行錯誤も出尽くしたころ,レコード産業全体が不況に見舞われたせいもあって,ロックは再び低迷期を迎え,70年代後半は,ディスコ・ブームという名の商業主義路線に主導された時期となる。
[パンクからニューウェーブへ]
こうした状態に不満の声をあげたのは,やはり貧しい少年たちだった。1970年代半ばに,ニューヨークでもロンドンでもそうした声があがり始め,75年にはロンドンでセックス・ピストルズSex Pistolsが出現した。…
※「ニューウエーブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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