改訂新版 世界大百科事典 「ナタン」の意味・わかりやすい解説
ナタン
Nathan
前10世紀前半に活動したイスラエルの預言者。ダビデがエルサレムに遷都したのち宮廷に登場。《サムエル記》下7章は,ナタンがダビデに預言して,イスラエルの神ヤハウェがダビデとその子孫を選び,イスラエルにおけるダビデ家の支配の永続を約束したことを告げる。この神の約束は,エルサレムの選びを加えて〈ダビデ契約〉と呼ばれ,後代になって,ダビデ家の子孫からメシアが出現するというユダヤ教メシア思想の源泉となった。しかし,ダビデが自分の家臣ヘテ人ウリヤの妻バテシバと密通し,この悪行を隠すためにウリヤを殺害させると,ナタンはヤハウェの名によってダビデを激しく叱責して,ダビデ家に不幸な争いが絶えないことを預言した。事実,ダビデの王子たちは,王位継承争いと反乱を起こして次々に殺害された。最後に,ソロモンの養育係であったナタンは,年老いたダビデを説得してソロモンの王位継承を決定させた。
執筆者:石田 友雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報