日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビトンボ」の意味・わかりやすい解説
ヘビトンボ
へびとんぼ / 蛇蜻蛉
[学] Protohermes grandis
昆虫綱脈翅(みゃくし)目ヘビトンボ科に属する昆虫。山地から平地にかけての渓流に依存する大形の、ややトンボを思わせる特異的昆虫。幼虫は川の中にすみ、マゴタロウムシ(孫太郎虫)とよばれる。成虫の体長は約40ミリメートル、前翅の開張約10センチメートル。体は太く、やや扁平(へんぺい)、色彩は暗黄色ないし黄褐色。頭部は大きく平たい。触角は糸状で多節。相対的に小さい複眼は左右に突き出、両眼の中間点に3個の単眼が目だつ。また、鋭い大あごが前方へ突き出している。後頭部両側に大小4個の黒褐紋がある。前胸は円筒状、頭部よりやや幅が狭く、両側に黒褐条がある。中・後胸は短め。はねは一般の脈翅目に比べて広大で、太い翅脈が粗くみられる。静止時、両翅は腹部上に緩く重ねるか屋根形に置く。前・後翅とも半透明で、翅脈は暗黄色で、根元などは一部分が黄色、また前翅に6~7個、後翅に2~3個の比較的大きい黄色円形紋がある。脚(あし)はいずれも細めの歩行肢で黄褐色。腹部は暗褐色、雄では尾端部に1対の付属器をもつ。成虫は6~8月に現れ、日中は水辺の木の幹などに止まっているが、夕暮れから活動を始め、灯火にも飛んでくる。ひらひらと飛ぶ飛び方で、トンボとは名ばかりである。
ヘビトンボの名は、これを捕まえると頭胸部をヘビのように動かし、かみついてくることによる。幼虫は扁平の幅広の体で、6センチメートルほどにまで成長する。頭胸部は赤褐色で硬化しているが、腹部はやや暗色で、淡く紫色を帯びるが、筋肉質である。腹部の両側には擬足のような肉質突起が水平に突き出、その基部に叢(そう)状の気管鰓(さい)がある。幼虫はもっぱら川底の石下にへばりついて生活し、ほかの水生動物を捕食する。北海道から九州までの各地に普通にみられ、また朝鮮半島、中国、台湾にも分布する。
ヘビトンボ科Corydalidaeは、センブリ類などとともに広翅亜目に属する。大形または中形の昆虫を含み、はねの幅が広い。3個の単眼をもち、脚の第4跗節(ふせつ)は単純な細い円筒形である。成・幼虫ともに肉食性。また、幼虫は流水性で、成長に数年を要する。蛹化(ようか)直前に上陸し、水辺の石下や倒木下などに小室をつくって蛹(さなぎ)になる。蛹はかなり活動でき、2~3週間後には羽化する。日本産のものはヘビトンボのほかに、クロスジヘビトンボParachauliodes continentalis、ヤマトクロスジヘビトンボP. japonicusがよく知られ、対馬(つしま)、琉球(りゅうきゅう)諸島に別種がいる。
[山崎柄根]