中学校教育と高等学校教育とを入学者選抜なしに接続し、6年間の一貫した教育を行うこと。この中高一貫教育は、これまで私立学校や国立大学付属学校で行われており、公立学校でも中学3年・高校3年の制度について以前から多くの改革が提唱されてきた。
1960年代以降における進学率の上昇を背景に、高校の準義務教育化が進行している。その結果、大学へ進学する場合、高校入試から3年で大学入試ということになり、入試をはさんだ中学・高校のくぎりは細切れ的で、学校生活に「ゆとり」がないという声が高まってきた。1997年(平成9)6月、第16期中央教育審議会第二次答申は、中高一貫教育の構想を具体的に提示した。これに伴い1998年6月学校教育法の改正が行われ、第1条に従来の「中学校」「高等学校」に加え、新たに「中等教育学校」が定められた(1999年度より施行)。この中等教育学校は、前期課程・後期課程各3年で、修業年限は6年、導入は各地方公共団体などの決定にゆだねられる。
中高一貫教育の実施形態としては、
(1)同一の設置者(地方公共団体・学校法人など)が六年制の中等教育学校を設置する(中等教育学校型・一体型)、
(2)同一の設置者が中学校と高校を併設する(併設型)、
(3)市町村立の中学校と都道府県立の高校とが連携する(連携型)、
の三つがある。
この中高一貫教育の利点は、
(1)入試の影響を受けずに「ゆとり」をもって6年間安定した学習ができる、
(2)6年間一貫した計画的、継続的な教育指導によって個性・能力を伸ばし、優れた才能を発見できる、
(3)6年間にわたる異年齢集団の活動により社会性や豊かな人間性を育成できる。
と考えられている、
一方、問題点として、
(1)受験競争の低年齢化、エリート校化を招くおそれがある、
(2)小学校を卒業する段階(年齢)でどの制度の学校に進むか選択することは困難である、
(3)心身の発達の差異が大きい6年間を同一の学校で過ごすことは、個人的にも学校運営上にも問題がある、
と指摘される。とりわけ「受験競争の低年齢化」「エリート校化」の問題は大きい。そのため、公立中高一貫校では入学選抜の学力試験を行わず、いわゆる適性検査をしているが、これが学力入試化しているとの批判がある。こうした問題を抱えながらも中高一貫校は徐々に増加し、2009年(平成21)4月の時点で370校となった。設置者別内訳は、公立168校、私立197校、国立5校であり、形態別内訳では、中等教育学校42校、併設型247校、連携型81校となっている。なお、2010年度以降に33校の中高一貫校の設置が予定されている。
ただ近年、いわゆる進学重点校などを拠点にした公立中高一貫校の増設が進むなかで、受験エリート校化する傾向が改めて問題となっている。中高一貫教育の本来の趣旨(ゆとりをもって個性・創造性を伸ばすなど)を踏まえ、公・私立学校の連携協力による改善の取り組みが望まれる。
[津布楽喜代治]
『文部省編『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について――中央教育審議会第二次答申』(『文部時報7月臨時増刊号』所収・1997・ぎょうせい)』▽『文部省編『我が国の文教施策 平成9年度』(1997・大蔵省印刷局)』▽『日本教育制度学会編集委員会編『教育制度学研究』第5号(1998・日本教育制度学会)』▽『文部科学省教育課程課編集『中等教育資料』2005年2月号(ぎょうせい)』▽『藤田晃之著『新しいスタイルの学校――制度改革の現状と課題』(2006・数研出版)』▽『高校教育研究会編集『月刊 高校教育』2006年10月号(学事出版)』▽『学校教務研究会編集『詳解 教務必携』第8次改訂版(2009・ぎょうせい)』▽『高階玲治編集『幼・保・小・中・高の連携・一貫教育の展開』(2009・教育開発研究所)』▽『藤田英典著『教育改革――共生時代の学校づくり』(岩波新書)』
(新井郁男 上越教育大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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