[進学率の定義]
進学率とは,ある教育段階に入学する者の割合をいい,その定義は統計ごとに異なっている。たとえば日本の「学校基本調査(日本)」では,「大学・短期大学進学率(日本)(過年度高卒者等を含む)」は,大学学部・短期大学本科入学者数(過年度高卒者等を含む)を18歳人口(3年前の中学校卒業者および中等教育学校前期課程修了者数)で除した比率を指し,「大学等進学率(日本)(通信教育部を含む)(現役)」は,高等学校等卒業者のうち,大学・短期大学の本科・別科および高等学校等の専攻科に進学した者の比率(通信教育部への進学を除く)を指す。日本では,高校卒業後の進路が進学または就職と比較的明確に分かれているため,上記の定義である進学率を用いやすいが,諸外国では大学への入学の過程が異なっており,また日本と比較して進学後に卒業に至る割合が低い国がほとんどであるため,大学へのアクセスを表す指標として進学率を使用しているとは限らず,バカロレア等の大学入学資格取得率,学士号取得率等を基準としていることがある。
[日本の大学進学率]
「学校基本調査」によると,1955年(昭和30)の「大学(学部)への進学率(過年度高卒者等を含む)」(以下,日本の進学率についてはこの数値を用いる)は7.9%であった。1960年代には,公私立大学の学科増設や学生定員変更の届出制への変更等により,私立大学が大きく規模を拡大した。また,1960年代後半に第1次ベビーブーム世代が進学した後に18歳人口が減少したことも重なって進学率が上昇し,72年には21.6%と初めて20%を超えた。1970年代に入ると,私立大学の無原則な量的拡大を見直し,大学の質を充実させることの重要性が指摘されるようになった。1975年に私立学校振興助成法が成立したことから,私学助成の膨張を防ぐために,私立大学の学科設置・定員変更が届出制から認可制に再び変更され,大都市部での私立大学新増設が原則禁止されるなど,大学の拡大は抑制された。このため進学率は,1975年の27.2%をピークとして,90年初頭まで25%前後に抑制されることとなった。
1990年代以降は,大学に対する規制緩和により大学の新増設が進行し大学入学定員が増加したこと,第2次ベビーブーム世代以降の18歳人口が急激に減少したことにより,大学入学定員と大学入学希望者の差が縮小した。また,同時期に高校を卒業した女性の進学先の中心が従来の短期大学から4年制大学へと移行した。これらの要因が重なることで進学率は急上昇し,1994年(平成6)に30%,2002年には40%,2009年には50%を超えた。2016年の進学率は52%となった。2000年以降は,全体的な在学者規模は変わらないが,18歳人口が減少したため進学率も上昇しており,また大学入学希望者総数と大学入学定員総数が等しくなる大学全入時代(日本)が到来したといわれている。
OECD(経済協力開発機構)の定義による高等教育への進学率は,生涯のどこかでいずれかの種類の高等教育プログラムに進学が見込まれる人の割合を推定したものである。OECDの調査における2014年のOECD加盟国の高等教育全体(ISCED-2011の分類に基づく)への初回進学率(当該教育段階に初めて入学する学生の割合)は68%,このうち学士課程については59%であった。ただし,同調査では進学率の中に留学生が算入されており,各国の進学率に大きな影響を与えている。たとえば,留学生受入れを収入源としているオーストラリアにおける学士課程への進学率は94%であるが,留学生を除くと79%に下落する。
[ヨーロッパとアメリカ合衆国ヨーロッパの進学率の変化]
ヨーロッパでは,大学はエリートを対象とした教育の場であり,イギリス,フランス,西ドイツの1960年以前における大学進学率は10%に満たなかった。各国が高度経済成長段階に到達した1960年代になると,エリート層ではない家庭からの大学への進学希望が増加し,また経済・産業の高度化に対応できる人材の育成が求められたことから,大学の量的拡大政策が進行した。一方で,私立大学を中心として量的拡大が進行した日本と異なり,ヨーロッパでは国立大学を中心に量的拡大が進められたため,拡大のために莫大な資金投入が必要となり,1960年代以降の大学の大衆化の中でも,時期は異なるものの各国とも進学率上昇を抑制している。1990年頃からは各国で大学に対する規制緩和が進むとともに,知識基盤社会に対応できる人材の育成を重視し,大学の量的拡大を図っている。OECD加盟国のうち,EU加盟21ヵ国の大学型高等教育(ISCED-1997の分類に基づく)への進学率は,1995年に35%であったのが,2012年には56%まで上昇している。近年では,EUは2020年を目標年度に据えた経済社会戦略である「欧州2020」において,EUにおける学士号取得者が3人に1人にとどまっていることを問題視し,30歳から34歳までの高等教育卒業人口比率を31%から少なくとも40%まで引き上げることを目標に掲げている。
アメリカの進学率では,第2次世界大戦後,4年制・2年制大学双方で大学の量的拡大が進行するなど,早くから高等教育の大衆化が進行しており,1965年には18~19歳人口に占める高等教育機関在学者の比率が35%に達し,85年には40%を超えた。OECDの調査における大学型高等教育(ISCED-1997の分類に基づく)への進学率は,1995年に57%であったのが,2012年には71%まで上昇している。しかし,マイノリティの人口増大,公財政の逼迫等の変化もあり,2005年に設置された連邦教育長官諮問委員会が翌年提出した最終報告(「スペリングス報告」)は,近年では世界的に見てアメリカの在学率が最高水準とはいえないと指摘し,マイノリティや低所得家庭出身者等を中心とした高等教育へのアクセス改善を訴えている。
著者: 黒川直秀
参考文献: 伊藤彰浩「大学大衆化への過程」『シリーズ大学2 大衆化する大学』岩波書店,2013.
参考文献: 文部科学省生涯学習政策局調査企画課『諸外国の教育改革の動向』ぎょうせい,2010.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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