コケ植物が胞子を形成する嚢(のう)状の器官で、胞子嚢ともいう。柄(え)をもち、植物体から挺出(ていしゅつ)するのが普通であるが、種類によっては柄がごく短く、あまり挺出しないで葉などの間に隠れていることがある。苔(たい)類の蒴は球形または長楕円(ちょうだえん)形で、熟すと4裂し、内部から胞子および螺旋(らせん)状の弾糸を出す。一方、蘚(せん)類の蒴には球形、円筒形、直立または湾曲など、さまざまな形のものがある。組織は一般に硬く、熟しても破れない。蘚類の蒴が若いときには帽(ぼう)(蘚帽)をかぶっているが、帽はあとでとれてなくなる。蘚類の蒴は、蓋(ふた)(蘚蓋(せんがい))、口、頸部(けいぶ)などに分かれている。口の周りには蒴歯(蘚歯)があり、蒴歯の乾湿運動で蒴の中に含まれる胞子が飛散する。頸部の発達は種類によって大小があり、ほとんど頸部のみられないようなものもある。また、頸部の表面には気室孔のあるのが普通である。こうした蒴の形、大きさなどはコケ植物の分類にあたっては重要な形質とされている。とくに蘚類では蒴歯の構造が科や属の決め手となっている。
[井上 浩]
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