ディラー&スコフィディオ(読み)でぃらーあんどすこふぃでぃお(英語表記)Elizabeth Diller & Ricardo Scofidio

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ディラー&スコフィディオ
でぃらーあんどすこふぃでぃお
Elizabeth Diller & Ricardo Scofidio

アメリカの2人組の建築家。リカルド・スコフィディオ(1935― )は、アメリカに生まれる。最初はアートと音楽を志し、その後建築に転向。1960年コロンビア大学卒業。ニューヨーククーパー・ユニオン教授。エリザベス・ディラー(1954― )は、ポーランドに生まれる。最初は映画と写真を学ぶが、ジョン・ヘイダックに影響され、建築の道に進む。79年クーパー・ユニオン建築学科卒業。プリンストン大学助教授。

 ディラーとスコフィディオは生徒と教師として出会い、79年から共同活動を始める。彼らは建築の設計ではなく、コンセプチュアルインスタレーションパフォーマンスによって評価された。そうした意味においてアンビルト(建てることを目的としない建築)の建築家であり、詩的なドローイングが重要だったヘイダックの系譜に連なる。ただし、ディラー&スコフィディオは、より洗練されたメディア・アート的な作品を発表している。彼らの活動は、建築の概念を揺さぶり、それを拡張する方向性を探る。

 彼らの作品手法は、三つの傾向に分類できる。

 第一に、日常生活において慣れ親しんだ風景を異化させること。例えば、家具を宙吊りにしたり、切断する「ウィズドローイング・ルーム」(1987)や、白いワイシャツをさまざまにアイロンがけする「バッド・プレス」(1993)は、社会の制度をずらしつつ、ジェンダーの問題にも接近している。

 第二に、場所の概念を再定義すること。パラサイト展(1989)では、美術館のあちこちに監視カメラを寄生させ、違う場所に視覚情報を伝送する。スーツケース・スタディ展(1991)は、観光を批判的に考察するものだが、展示品そのものが50のスーツケースになっており、巡回すなわち旅をするインスタレーションだった。

 第三に、知覚を撹乱させること。ディレイ・イン・グラス(1986)は、マルセルデュシャンへのオマージュであり、傾いた鏡や回転するパネルを活用した複雑な舞台装置だ。「欲望する眼」展(1992)やループホール(1992)は、透明/不透明が切り替わる液晶ガラスによって、向こうをのぞく来場者をいらだたせる。

 ディラー&スコフィディオは、いわゆる建築に対して批判的な態度をもつ。アメリカ同時多発テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービルの跡地については、事件の記憶を抹消しないために、スカイラインを修復するようなビルを再建せず、空っぽのままにしておくべきだと提案している。

 スイス万国博覧会のためにつくられたパビリオン、ブラー・ビルディング(2002)では、「湖上に浮かぶ雲の家」とよばれる斬新なデザインを実現した。3万1500個の噴霧ノズルから濾過(ろか)された湖水の微細霧粒子が吹き出し、湖上に大きな人工雲を生み、風や温度の状態によってかたちが変化する水の建築であり、映像のスクリーンにもなるものだ。

 1999年に建築家として初のマッカーサー賞を受賞。そのほかティファニー賞(1990)、マックデルモット賞(1999)も受賞している。ほかの主な作品にプライウッド・ハウス(1981)、スローハウス(1992)、ソフト・セル(1993)、「リフレッシュ」(1998)、「トラベローグズ」(2000)、「ファクシミリ」(2001)などのインスタレーションがあり、ディラーの建築作品として岐阜県営住宅ハイタウン北方(きたかた)ディラー棟(1998)がある。著書に『Back to the Front』(1994)、『Flesh』(1994)、『Blur』(2002)などがある。

[五十嵐太郎]

『Back to the Front; Tourisms of War (1994, Princeton Architectural Press, New York)』『Flesh (1994, Princeton Architectural Press, New York)』『Blur; The Making of Nothing (2002, Harry N. Abrams, New York)』

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