機織歌(読み)はたおりうた

改訂新版 世界大百科事典 「機織歌」の意味・わかりやすい解説

機織歌 (はたおりうた)

民謡で,機を織るときに歌う労作歌。古くは〈居坐機(いざりばた)(地機(じばた))〉という,女子が尻を地面につけて,チャンカラチャンカラと横糸を通す杼(ひ)を左右にさし入れる機で,家の中で織っていたが,機織歌はおもにそのころの作業歌として歌われた。《俚謡集》に愛媛県松山地方の機織歌として,〈機を織り織り道の人見れば お手はお留守で縞織り違え 隣のおばさんそこに立って見より わしの顔見てへらへら笑う 笑うおばさんあなうとましや 道のあの人ははや影見えん〉とあるように,元来は長い調子の緩やかな歌であった。近世末に織物業が工業化され,手機(てばた)から高機たかはた),さらに滑車を利用した能率的なバッタン機に発展し,織り手が工場に雇われるようになると,歌のテンポや内容も,その変遷とともに変わる。たとえば,兵庫県の多可郡では〈工女工女とさげしみなさる 泥の中にも蓮の花〉,京都の丹波地方では〈織手根性に機(はた)さき根性 それを見習う管巻きは〉,同じく西陣地方では〈忍べ艱難こらえよ辛苦 奉公大事に余念なく 草履つかみし下部しもべ)でさえも 末は天下になり瓢(ひさご)〉などのように,織子の辛さを訴えた内容のものになる。明治以後になると工場で働く集団の歌も歌われた。
糸繰歌
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